2018年の演奏会、コンクールを振り返る・中編

 





2018年の演奏会、コンクールを振り返る・中編です。

 

 

5月27日

CORO MIWO JOINT CONCERT

岡山市立市民文化ホール

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デッド極まり空調の音が気になるホールでも、MIWOの繊細さ、バランスの良さ、表現力の高さは健在。
「人間の顔」のプーランク特有の和音と官能性に聴き惚れ、続くジェンジェシの高難易度のリズムをサラリとこなし、ノリ良く高まったラストに拍手!
最後の合同、信長先生「ゆずり葉の木の下で」は賛助の倉敷少年少女が暗譜で、声楽として練られ、合唱団こぶもMIWOと溶け合い、ナイスアシスト。
子どもと大人の合唱から未来を感じさせる、清々しい演奏会でした!

↓詳しい感想。

 

 

 

 

 

 

6月9日

大西順子トリオ

倉敷・AVENUE

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いやあ、大西順子トリオ、素晴らしかった。
超至近距離で天才の音楽に対面しているため最初から息を飲まれっぱなし。スリリングで楽しい!
超一流のプレイヤーたちの丁々発止のやり取りがなんとカッコいいことか。
音楽が加速していく際の順子さんの笑みに(この超絶凄い演奏中に、わ、笑っちゃうんだ…)と衝撃でした。
イイものを聴いた!

大西順子さんと言えば、音楽活動を一時休止されていて。
その休止会見で、居合わせていた小澤征爾氏が立ち上がって「止めちゃダメだ!」と叫んだエピソードが好き。
そりゃこんな稀有な人、音楽止めちゃダメですよ・・・。

ちょうどこの日、プロレスラーの蝶野正洋さんと世界的なジャズピアニストの大西順子さんという意外な組み合わせによる栄光と挫折の生き方を語り合う番組がEテレであり。
SWITCHインタビュー 達人達「蝶野正洋×大西順子」
http://www4.nhk.or.jp/switch-int/x/2018-06-09/31/28358/2037180/

この対談、面白かった!
蝶野「プロは名前で客を呼べるかどうか。そして来た人を満足させ、また来たいと思わせられるか」
大西「ピアノは体と手の大きさが全て。(憧れたピアニストは)黒人の体の大きな男性だったので、そんな音は出せっこないんだけど、今もあがいている」
大西「音楽には静も動もある。 でも、動の部分をひけらかすのは嫌。 理想はただ座ってるように見えて、実は凄いことをやっている演奏。しかしそれでは聴衆に伝わらず、観客が半分以下になるだろう。それでも、良いと思うのは無駄な動きが一切ない音楽」








6月17日

岡山県合唱連盟創立70周年記念演奏会

岡山シンフォニーホール


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若い声と曲想が噛み合った「新しい歌」、ニューミュージックの歌の強さを再確認した男声「時代」、名曲の女声「三つの叙情」、水の様相と人生の葛藤が重なり説得力があった混声「水のいのち」と聴き応えのある演奏会でした。
指揮の山脇卓也先生、鈴木捺香子先生、清水雅彦先生お疲れ様でした!
アンコールとして客席に残っていた(残らされていた?)高校、大学ユースの人と「大地讃頌」を演奏しても良かったのでは、と思ったな。










6月24日

CANTUS ANIMAE X MODOKI熊本演奏会
~熊本へ、そして熊本から~

熊本県立劇場コンサートホール

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ツイッターの感想では

CA xMODOKI終演!
前菜にカツ丼とチャーシュー麺、メインに500グラムのステーキを出され、やれやれ終わった…と思ったらアンコールは280名で三善先生の「であい」と、デザートが1ホールのケーキ丸ごとだった演奏会。
出演者のみなさん、そして観客のみなさんお疲れ様でした!


単独それぞれ1ステージ、合同ステージで「二つの祈りの音楽」「交聲詩 海」「唱歌の四季」、アンコールで「であい」。
加えて地元の合唱団によるゲストステージと若い指揮者のステージと、アンコールも含めれば全部で8ステージとなるこの演奏会。
聴く側もヘトヘトに。

さらに前日にはピアニスト、若い指揮者、合唱団への講習会も開催。
解散式後、座っていたMODOKI団員さんが立っている人に「なんで座らないの?」と尋ねたら「一度座ったら立ち上がれなくなる」と答えていたのに、このイベントの過酷さを感じました…。


書きかけの感想が残っていたので、成仏させましょう。


2018年6月24日 13:30開演 熊本県立劇場大ホール

1000人に近い観客が各ステージごと各曲ごとに、息とともに、こらえていたものを出していた。
東京のCANTUS ANIMAE、佐賀のMODOKI、2年ぶり3回目になるジョイントコンサート。

このジョイントコンサート。
最後まで聴き、プログラムの流れとしてキューブラー・ロスの死の受容に至る過程や、ツイッターで流れた阪神大震災で生きることへの虚無感を抱えたマインスイーパーの作成者のことを考えずにはいられなかった。
言いかけては何度も止め、ためらうような、平林知子先生の美しいピアノ前奏と、ためいきのような合唱の入り。
ピアノとの対話で紡がれるMODOKI単独のブラームス「Nänie」は死者への哀悼で貫かれているが、時に理不尽な死への怒りを思わせる激情を表し、やがて祈りの平安へ収束していく。
CANTUS ANIMAEの演奏する木下牧子「方舟」の「水底吹笛」は決意のフォルテで「ひょうひょうとふえをふこうよ」と始める。
失意に沈む心を振りほどくように。
それでも心は迷い、さまよう。
自在なテンポの後、だからこそ決然とした「あすののぞみもむなしかろうと」フレーズが説得力を持つ。
「方舟」では「空を渡れ」という決意のような言葉から始まるが、そのフレーズも単に言い切るのではなく、音量と共に想いを増やし、次のフレーズへ、音楽全体に及ぼすよう歌われる。
愛するもの、人と終末に向かおうとするこの星への愛と、それらとの決別という相反する想いが激しい音楽と共に奥行きを与える。

このジョイントコンサートの1回目は2011年、東日本大震災の2日後に東京で行われた。
岐阜で行われた2回目の2016年、4月に熊本地震が起こった。
MODOKI、CANTUS ANIMAE両団の団員であるYさんは熊本在住。
3回目となるこのコンサートの企画がこの熊本で行われたのも地震と無縁ではないだろう。
そしてコンサート5日前の大阪府北部地震。
MODOKI、CANTUS ANIMAEにも大阪在住の団員がおり、ピアニストの平林先生も被災されたそうだ。

マインスイーパー作者の「ああ人生は何もかも無駄、生きて何かしても不意に奪われるんだ。無作為に。無条件で」という思い。
被災し大きく失われたものがあってから、時間が経っても心の平穏との間で揺れ動くのが人の心ではないだろうか。
高校生のChoeur cinqの「百年後」、そして熊本県立第一高等学校合唱団の瑞慶覧尚子「Let's sing a song」はそのまっすぐな想いが伝わり、心動かされたのだが、それは未来を信じることができ、生きる力に満ちている高校生ならではの説得力。
齢を経てさまざまな想いを抱えた自分の歌として、大きく重なるものがあるだろうか?と離れて見てしまう自分がいる。

それでも、たまたま隣り合わせた女子大生が自分の作ったゲームをやっているのを見た時のような、CAとMODOKI合同の「永遠の光」でピアノが入った時のような、もう決して動かないはずの止まっていた心が動き出す、そんな美しい瞬間もまた確実に存在するのだ。
生きていて良かったと、何の疑念も無く思える。そんな瞬間が。

 



あと、この日の「交聲詩 海」は本当に素晴らしいものでした。
昨年聴いた演奏で3本の指に入るほど。



 

 

 


7月1日

Joint Concert 2018 -Ars novaを求めて-

京都・長岡京記念文化会館

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G.U.Choir、同志社混声合唱団こまくさ、神戸大学混声合唱団アポロンのジョイントコンサート。
G.U.さんの「方舟」、130人ほどの合同で演奏された「星の旅」が、森田花央里さんのピアノ含めとても良かった。
森田さんは「みなさんの、自分の言葉として語ってくれれば良いな、と思い曲を書かせてもらった」と仰っていたが、それは充分叶えられていた。

G.U.Choir指揮者の山口雄人さんはこのステージを最後にハンガリーへ留学。
向こうでも頑張っているようです。
また演奏を聴かせていただくのを楽しみにしています。

 

 

 

 

 



7月28日、29日

東京国際合唱コンクール

東京・第一生命ホール

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素晴らしいイベントでした。
ブログにも室内合唱、ユース、同声、混声合唱部門まで書いたのですが…。

http://bungo618.hatenablog.com/entry/2018/08/06/165216
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2018/08/08/215605
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2018/08/16/201237
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2018/08/24/124053


すみません! 現代音楽部門やフォルクロア部門、グランプリ大会も本当に素晴らしかったのですが、さすがに記憶が遥か遠くになってしまったので感想を書くのは断念します!
(フォルクロア部門なんて、全団体録画したのに…)

これもツイッターに残した感想を。



現代音楽部門前半5団体終了。
コンクールとしては傷があるけど香港・Diocesan Choralがとても良かった。
大学生くらいの年代の男女40人ほどが混在して並ぶ。
音楽は若々しさを活かしたセンスあるもので、ひとつの音楽、時間をみんなで共有しているのが強く伝わる。
Chor Domaを初めて聴いた時を思い出す。
Diocesan、特に最後に演奏したDan Forrest「Entreat me not to leave you」が良い曲で、演奏者の、いつか失われてしまうこの大事な一瞬を…!
身体全体から発せられるものに、涙が滲んでしまった。CD買おう!

グランプリ大会終了! いやー凄かった。
結果、好きな団体ばかり選ばれていたので某氏の言われた「国際コンクールの審査は減点ではなく加点方式」を実感することに。
いくつかの団体は録画したので、アップ出来ればいいな。



コンクール終了後、札幌のM岡くんとサシ飲みしたのだけど、相変わらず楽しかった。
外には出せない話ばかりだったが、TICCに関して覚えていて、外に出せることをいくつか。



M岡 日本の、特に学生団体は
  『練習結果発表』だったと思うんですよ。


文吾 あー、練習で上手くいったのを100%として、
   それを目指す感じね。


M岡 比べて海外団体は「フェス」!


文吾 フェスぅ?!


M岡 そう、観客とのコミュニケート、
   本番の空気を楽しみながらアガっていく。
   あの意識、見習いたいなぁ…。


文吾 海外団体って、演奏水準はアレでも
   パフォーマンスは1団体の例外もなく
   決まってたじゃない。
   比べて日本の団体は良い所もあったけど、
   フィンガークラップひとつにしてもさぁ…。


M岡 笑。
   指導者に素養が無い。
   やればいいとだけ思ってるんでしょうかね。


文吾 演出をする団体は撮影して、
   全員で見直して欲しいね。


M岡 やっぱりそれも観客を意識して、
   楽しませようとするかどうかだと思うんですよ。
   「練習結果発表」じゃなくて。


文吾 だね。
   もちろん良かった団体もあったけど、
   日本の団体は「一生懸命やっているからヨシ!」的な。
   他者がどう見るかの観点まで
   たどり着いてない気もしたね。



いやあ、それにしても香港・Diocesan Choralは本当に良かったなあ。
演奏を聴いて泣いちゃったんだけど、コンクール的には傷がある演奏と思って。
それがまさかグランプリを受賞するとは。
あとCDを充分確認して購入したはずが違う団体でした…。
だれか聴かせてください・・・。

松下耕先生にお会いした時思わず「こんな素敵なコンサート…違う、コンクールを開催していただきありがとうございます!」と言っちゃったほど。
今年も聴きに行こうと思います!


あと、このイベントにはたくさんの感想ツイートがあったのですが、一番響いたのはこのツイート。
確実に日本の合唱を変えるイベントですね。

 


(後編に続きます)