東京国際合唱コンクール感想:その3(ユース部門)




間が空いてしまいました。
ユース部門は15:45分からの14団体出場。
私が格別印象に残った団体の感想を出演順で。
(記された人数は不正確な場合があります)

中国、香港、フィリピン、チェコ、台湾とこちらも国際色豊かな部門。
さらに日本の団体も全国大会常連と思われる中学・高校の団体が。

 

 


審査結果はこちら ↓ 

 




山形からの羽黒高等学校合唱部(女声合唱23人、うち男性3人)

始まりの丸尾喜久子先生「立石寺にて」は息を吐きながら動き回り、広がる。
雨、蝉の音、鳥の鳴き声…サウンドスケープとして優れ、音響バランス、歌の入りのセンスなど、その繊細さ、確かに空間を作る演奏技術に感心。
初演作品ということで丸尾先生ご自身が指導に行かれた旨もツイートで拝見しました。
課題曲の「知るや君」は一聴するとやや細い声に感じますが、その存在感!
音量が大きくなった時の跳躍などに難はありましたが、フレーズ、言葉を大事にする姿勢に、ちょっと涙腺が。
最後に歌った北川昇先生「歌」はトライアングルの多彩な音色、音量の上手さが光りました。(82.6点 銀賞)






鹿児島県立松陽高等学校音楽部(女声24人、うち男性2人)

白の巻頭衣のような衣装で。
「知るや君」は豊かで深い声、フレーズ長く、「歌」を感じさせる。
続けてのJ.P.Sweelinck「Lascia Filli Mia Cara」は作品の雰囲気が香ります。
全体に「歌」だけで音楽を捉えているのに疑問が無いわけではないけれど、ここまでの表現力は立派。
最後のSchafer「Miniwanka」は創作ダンスが全面に。(88.1点 金賞8位)




鶴川第二混声合唱団(女声51人、男声23人)

衣装からOBが何人か混じっていると思われる、中学生が主体の団体。
昨年の全日本の全国大会で金賞第1位だそう。
最初のArcadelt「Il bianco e dolce cigno」は明るい声!
やや力任せなところはあるけれど豊かな男声、フレーズに入るごとの新鮮さが良かったです。
「知るや君」は出だしにとても良い音が鳴っていて。
これまたちゃんとした頭声の男声、そしてフレーズが上手い。
このように超中学生級の男声が素晴らしい団体なのだけど、残念ながらパートごと、合唱団としての音響にまとまりが欠けていて。
それは多分にこのホールの音響の良さが理由かなあ。
中学生ぐらいの団体ならせいぜい50人まで、成人の団体なら40人を越えるのであれば、かなり聴き合って響きを作らないと、このホールでは散漫な印象になってしまうというのが私の感想です。
審査員席も前の方に位置していましたしね。
松下耕先生の「湯かむり唄」「日本の仕事唄」は声に喜びがありました。(90.6点 金賞5位)

 






豊田市少年少女合唱団ユース(女声40人、うち男性4人)

Palestrina「Hodie Christus natus est」声が響く!輝く!
Allelujaでは躍動感、Gloriaでは喜びが伝わってきます。
フレーズのエネルギー、加速し、減速するというような気持ち良い運動性が感じられたのも◎。
Forbes「O Magnum Mysterium」は雰囲気が変わり、始まりから荘厳さを。
Gyöngyösi「Deus Ultionum」ではまた雰囲気が変わり、速いテンポで隙を感じさせず見事に音楽が高まっていきます。
4曲目に演奏された「知るや君」は柔らかい音で始まり、ある種の郷愁を感じさせ、しみじみとしてしまい。
この時点で私はテキストを知らなかったのですが、少女にぽつりと「…知らないでしょ」と言われたような秘めた恋心を受け取りました。
実に共感度高く、繊細な名演。
最後の松下耕先生編曲「会津磐梯山」は響きの豊かさ、空間の広さを感じさせてくれて。
様式も曲想もさまざまな作品を演奏されたのも凄いですが、それぞれの曲全体を通した構成に優れ、また音楽の始まりから見事に雰囲気を変えた演奏だったのも素晴らしい。
結果は94.3点 金賞1位!(全部門で最高得点)







Chor OBANDES(女声16人、男声17人)

女声のワインレッド色のドレスに目が惹かれます(笑)。
「知るや君」は男声、特にテノールが優しく繊細でとても良い。
Arvo Pärt「Nunc dimittis」は静謐な雰囲気が出ていました。
全体に、女声がもう一歩、いや半歩前に出る表現なら…。
そして合唱団そのものの音がバランス含め、もう少し精度を高めてクリアに聞こえれば…など思うところはありましたが、音楽の運び方と雰囲気にうんうんと頷いてしまうような演奏。
若く優れた指揮者と成長していくOBANDESさんの未来に期待です!
結果は92.4点 金賞3位!






La Pura Fuente(女声29人)

Shumann「Der Wassermann」は練られた発声から繰り広げられる音楽に深みと気品があります。
言葉の扱いもキレが良かったです。
最初から音を鳴らし圧倒した「知るや君」を経て、Gyöngyösi「Parvulus natus est nobis」は全日本でも演奏された作品。
客席に3人の天使が降り、呼び交わすごとにうつむいていたステージ上の合唱団の顔が上がっていき、力強さも伴っていきます。
やや表現が単色で変化が欲しかった気も? 
それでもフォルテの鳴りと響きは充実していました。
同じくGyöngyösi「Gloria in excelsis Deo」は少し予定調和の気もしましたが、ボンゴ、タンバリン、ピアノと合わせたクライマックス、心が昂ぶりました!
最初に書いたように気品と奥行きのある淑女の声で、どの曲も見事に演奏され、個人的には完成度が頭ひとつ抜けていたので1位かな?と感じたのですが、92.2点 金賞4位。

 






むむむ…と思ったのがチェコのKoncertní sbor Permoník(Youth Choir Permonik 女声24人、うち男性1人)

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スパンコールまぶしく最初のRupert Lang「Cantate Domino」はやや地声に感じられる発声。
響かせるというものではなく、強く直線的に圧倒するような。
体を揺らし、ピアノと共に歌い上げます。
2曲目のJan Facilis Boleslavský「Když jsi v štěstí」はソリストが後ろを向き、演奏も切なさを感じさせるものだったけど、「合唱」としての意味は?などと思ってしまい。
全体に表現が、大きな枠いっぱいに個人が歌い上げる印象で、なにか疲れて積極的に聴く気を無くしてしまったのでした。
しかし結果は92.9点 金賞2位!
他の人の感想を聞くと「特に課題曲はしっかり楽譜を読みこんだ演奏をしていた」とし、作曲家の相澤先生も課題曲作曲者賞に選ばれるまで賞賛していたので、反省・・・。

  






ロシアからのДжаз-хор Государственной Детской филармонии
(JAZZ-CHOIR OF THE STATE CHILDREN PHILHARMONIC)

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シャンプーハットのような帽子が可愛い女声40人。
指揮者はカフェの店員のようなエプロン?姿。
Berlioz「Veni Creator」は明るく愛らしい表現。
表現しようとする意欲のまま身体が動き、ピアニッシモのセンスなど練度の高さを感じさせます。
「知るや君」はかなり明るめな演奏。
フォルテはこの人数だとやはりうるさく感じてしまうかなあ。
Daria Zvezdina「Callanish」は息を吐く、吸う、複雑な音型とリズムなど混沌としたものがある現代曲。
表現としての強さがありました。
最後のStephen Leek「Impossible Birds」 
軽やかなリズムで見えない鳥を様々な鳥の鳴き声、演技で表現するこれもなかなか面白い作品。


初めは正直キワモノ?と思ったりもしましたが、突き抜ける表現欲と耳を聾する大音量に頭が痺れ「こ、これはこれでイイのかも…」と。
最後は笑いながら大拍手してしまいました。(88.0点 金賞9位)


↑ 東京国際合唱コンクールの動画じゃなく、3年前の演奏だけど実に楽しい!






チェコからのOndrášek novojičínský sbor(Ondrasek Czech Youth Choir)
女声41名、うち男性4名。

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2曲目に演奏したAntonín Dvořák「Čtyři dueta op.38」が華麗なピアノに乗り、愛らしい雰囲気を醸しながら歌い上げ、ドボルジャークの音楽の魅力に満ちたコンサートのよう。
私が苦手としたチェコのYouth Choir Permonikと同じ曲のOtmar Mácha「Hoj,Hura,hoj!」も優しく呼びかける雰囲気。
課題曲の演奏も日本に近い柔らかく繊細なもので親しみが湧きました。(90.5点 金賞6位)



 

【ユース部門全体の感想】

予想と実際の審査結果のギャップに一番驚いたのがこの部門でした。
チェコのPermonik以外、予想順位が上の団体は上位の金賞を受賞し、点数もそれほど開いていたわけでは無かったのですが…。

知人と話していた時に「国際コンクールの審査は減点じゃなく、加点方式だから!」との言葉を聴いたのですが、それも納得できる結果でした。
細かなミスで減点は無く、多彩な曲を魅力が伝わるよう、裡にこもらず、いかに積極的にアピールできるか?
それは掲載した動画でお分かりになると思います。

もちろん各審査員、各項目の審査結果を見たわけではなく、推測に過ぎないのですが、自分のコンクールに対する審査基準は全日本合唱コンクールに基づいているのだなあ、と確認することになりました。


さて、日本のコンクールで優秀な成績の団体がいくつも出ていました。
日本では小・中・高・大学ユースと細分化されているコンクール。
この東京国際合唱コンクール・ユース部門、これを機に来年度から、知名度が高い中学のあの団体高校のあの団体、はたまた大学のあの団体が出場して海外団体と競ってくれないかな?!



(混声合唱部門の感想に続きます)