高野秀行氏のブログでも触れられて
http://www.aisa.ne.jp/mbembe/index.php?eid=593
本の雑誌9月号での高野氏の連載でも紹介されていた
「トルコのもう一つの顔」(小島剛一) 、めっぽう面白かった!!
- 作者: 小島剛一
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/02
- メディア: 新書
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言語学を専門とする著者がトルコに惹かれ、
トルコ全土を旅することになるのだが、
やがて題名の「トルコのもう一つの顔」に気づくことになる。
すなわち「クルド族の問題」である。
トルコ政府がクルド族の存在自体を公に認めていないため、
クルド族をはじめとするトルコの各少数民族は
かくれキリシタンのように、自分たちの言葉や文化を隠して生活している。
言語の天才であり、
また、トルコ人が人懐こいと言えどもここまで溶け込めるのか?!
と思うほどトルコ人の気持ちを深く掴む著者の人柄。
トルコ各地の少数民族の実態を知るようになっていく姿が大変興味深い。
高野氏もブログで触れられているが
政府のスパイが紛れ込んでいる村の居酒屋で、
そのスパイが帰ったと同時に話されるその民族独自の言葉。
同時に歌われる村の民謡。
「ドゥイェ・ドゥイェ(村よ、村よ)」というその歌は
対立するトルコ政府に徴兵されてしまう夫の、
愛する妻への哀歌だった。
村人と合唱し、その民謡を憶える小島氏。
やがてトルコ警察に無実の罪で連行される小島氏。
食事も与えられず独房に閉じ込められる。
絶望と孤独感と空腹に苛まれたその時、
外に面する窓から初老の男の歌声が聞こえてくる。
「♪ドゥイェ・ドゥイェ・・・」
(これはあの居酒屋で憶えた歌じゃないか!)
しかし、その歌はなぜか途中で止まってしまう。
歌を憶えている小島氏はその続きを歌う。
…すると窓から食料が投げ込まれる。
警察から解放された小島氏が村の少女と会うと
その少女が、小島氏が警察に連行されたのを見ていたため、
父母に言って村人みんなで相談し、
食料を差し入れる算段になったと言うのだ。
「アシュレ(食料)はおいしかったかしら」
「とってもおいしかった。あれは誰が作ってくれたのかな」
「私たちみんなよ。私たちは人間なの。人間なら誰だってそうするわ」
・・・・。
パトロンもいなく、大学で職を得ているわけではない小島氏は
純粋に知的好奇心のために、
トルコ政府に逆らってまで少数民族のフィールドワークを続けていく。
随行したトルコ政府の役人の
「あなたの言語研究の政治目的はなんですか」と尋ねられ
「学問研究の目的は知識そのものである。
成果を政治的に利用することはできるが、それは政治家の仕事だ」
と言い切るところなど、実にかっこいい。
この本は少数民族の地の結婚披露宴に招かれ
小島氏がその地の言葉で民謡を歌おうとしたら
「ラズ語(民族語)は禁止です」と官憲に捕まり、
国外退去されたところで終っている。
・・・凄い日本人もいたものです。
本が書かれたのは1990年。
それから約20年。
小島氏のこのような旅行記の著作はこれ一冊だけのようなので
続きをぜひ読みたい!!
高野氏ブログのその後の記事によると
続編が執筆中らしいので大変楽しみです。
「孤高の天才教授」「ほとんどゴルゴ13の域」
…などと、実際お会いすると、相当凄い人のようだ・・・。
http://www.aisa.ne.jp/mbembe/index.php?eid=681