1府3県旅行記 その7

 

 <前回のあらすじ>
「西の横綱」と称される名居酒屋「さきと」へ入店した
文吾とSさんは・・・。

 

 
「さきと」は日本酒の品揃えも良いのだ。
あ、「十四代」がある! 
このお酒、飲んでみたかったんだよなー。
うーん、米の味がしっかりしてウマイ!

生の白子を食べたら焼き白子も食べたくなり。
店主さんの包丁の技で見事に薄く切られたナマコに唸り。

「柔らかいナマコをどうやってここまで薄く切れるんだろうね?」
とSさん。
「ナマコを半冷凍して切るのはどうでしょう?」と私。
「・・・店主さんにもナマコにも失礼だなあ(笑)」



Sさんは日本酒に造詣が深い人なので
地元:福岡の酒を教えてもらい頼みます。
「へえ、山の壽って単体の味と料理と合わせた時と
 ずいぶん違いますねえ。
 あ、この若波って凄い綺麗な味で好みだなあ!」
「杜氏が女性なんだよ」
「どうりで女性的な味だと思った!」
「調子良いなあ(笑)」

などとバカな話をしながら日本酒が進む進む。

刺身盛り合わせや料理もいろいろ頼んだのだけど
この店の名物とも言われる「カニ味噌豆腐」。
翡翠色の直方体を掬い口に入れると… 「!」
カニ味噌のエグさを消し、旨みだけを残し固めたような。
日本酒と合わせるとさらに味がふくらみ、相性も抜群。
これはオモシロイ、と白ワインをグラスで頼み合わせると
これまた日本酒とは全く違ってオモシロイ!



さて、開店すぐに満席になり、訪れる人を何組も断るこの人気店。
さぞかし文吾は満足したのだろう…と思うかもしれないが、
ゴキゲンで飲み食べていくうちに最初はかすかな不満が

1時間ほど経つと大きく膨らんできた。それは


「《料理》が食べたい!」という不満。

いや、刺身は切っただけで料理じゃない、
なーんて下らないことを書くつもりはないです。

ただねー、食い意地が汚いせいか
「複数の食材を、提供直前に複数の調理過程を経た
 《料理》を食べたい!」
なんて思ってしまったのだよな。

ほぼ店主さん一人で調理をやっているという理由もあるだろう。
あと、良い日本酒をちゃんと味わうためには
シンプルな肴の方が目的にかなっているのかも。

でも、自分にはここの肴で最後まで通すのは若干の物足りなさが…。

同じ頃入店した奥の席の2人客が
日本酒2杯、肴2品。
小一時間ほどでサッと帰っていたけど
ああいう飲み方が向いてるのだろうな。
それが自分にできるかどうかは別として(笑)。

ちなみに料金はあれだけ飲み食いした割にリーズナブル。
一見コワモテの店主さんも調理に忙しそうにしながら
応対の端々に優しさとユーモアが垣間見れて良かったです。
多くのファンがいるのも納得な素晴らしい店なのは間違いありません。

・・・まあ、ただ、私が「粋」じゃなかった、ということで。


さて、入店から1時間半が過ぎようとする頃。
私の「…むー」という表情を感じ取ったのかSさんが

「文吾さん、今日の夜21時の新幹線で帰るんだよね。
 明日は朝から仕事なの?」
「いや仕事は明日の昼からなんですが。
 やっぱり帰ってからすぐ仕事は辛いですからねー」
「ああそっか、残念だなあ。
 明日帰るんだったら、ここから歩いて数分のところに
 すごーく安くてすごーく美味しいビストロがあるんだけ」
「行きましょう!」

 


「・・・え?」
Sさん、ぐい呑みのお酒を飲み干し、改めてこちらに向き直り

「本当に? 明日後悔しない?」
「『愛とは決して後悔しないこと』!
 自分の酒と食べ物への愛はそれだけ深いんですっ!」
「それって一見カッコイイ言葉だけど
 単なるダメ人間だよね…」


まあ文吾くんがそれで良いなら行こうか、と
注文していた塩ウニをキャンセルし、
いざSさんお勧めのビストロへ!




(つづきます)