「題名のない音楽会」

 

 

もう1週間前になりますが
テレビ番組「題名のない音楽会」観ましたか?

 

 

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指揮者:山田和樹氏が「日本一の合唱団」を指導して
その演奏がどのように変わるか?という内容。

www.tv-asahi.co.jp

 

 



コンビーニ・ディ・コリスタさん、
東京フラウエン・カンマーコールさん、
豊島岡女子学園さんそれぞれの演奏も良かったんですが、
やはり注目すべきは山田和樹氏(以下ヤマカズ氏)の指導でしょう。



ヤマカズ氏の指導は、言葉として書きだすとかなり抽象的です。


フラウエン「ねむの花」の指導では
「花との距離感を強弱をもって表現」
「『お眠りなさい』は強く言い切らず語りかけるように」
「花の香りがするように」


コンビーニさんへの指導はまだ歌へのイメージが喚起されます。
黒人霊歌「Ain‘-a that Good News!」では
「曲のパワーをいかに表現するかが課題」
「どのパートが一番強いか対抗するように」
テノールから始まる静かな場面では
「すごく嬉しいことを自分だけにとっておくような感じで」



豊島岡女子「おんがく」への指導はなかなか難しい。
「曲のイメージをどう伝えるか、
 アカペラ作品の響きをどうつくっていくかが課題」
これは理解しやすい。しかし次。

「神様はどこにいるのか、
 歌う前からその存在を感じそこに息をのせるだけ」
「溜息のように」
「花火の粉が降る感じ」

うおー!と思います(笑)。
そこまで抽象的な指示で大丈夫か?!と。


しかし、その後、明らかに演奏が変わるんですね。
抽象的な指示を具体的な発声の技術に変換する知性、
豊島岡女子スゴイ!と感心したのです。


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そして、そういうヤマカズ氏の抽象的な指導から、
ゴールデンウィークに見学した
「若い指揮者のための合唱指揮コンクール」を思い出したんですよ。

bungo618.hatenablog.com





出場されたG.U.Choirの山口雄人氏ブログ後半のでの言葉が迫ります。

GW回想録「指揮者コンクールを終えて」|もりもり合唱革命ブログ!!

 


最高の食材が目の前で用意されているから、
好きなように味付けしてあらゆるジャンルの料理を作れるよ!
といわれているにもかかわらず
「下ごしらえばかりしていた」そんな練習だった。

 

 

 

基礎的な練習と「音楽」の境目は分かち難いものかもしれませんが、
それでも音楽というもの、指揮者という存在について
深く考えさせられる、
そして大変興奮させる面白いコンクールでした。


あの「題名のない音楽会」での優れた合唱団、
そして大変少ない時間(5分、10分?という話もあり)で
いかに「音楽」を表出させるか?
別の問いとしては、
発声、音程がほぼ完成された合唱団に対し、
指揮者は何を要求すべきか?


・・・そういう問いなのだと思います。


この文章を読んでくださる人は多くが合唱団員で、
日々、音程や発声などに
自分や他のメンバーのことに頭を悩ませているのでしょう。
おそらく指揮者もそうなのだと思います。
しかし、そういう発想の外。
発声、音程が満足いく次元の、
さらに先の客観的な自分たちの評価については
なかなか考えられないのではないでしょうか。

発声に関して具体的な指示が無かったのは、私も少し不満でした。
ヤマカズ氏は合唱部を経験してはいますが
声楽の専門的な教育を(おそらく)受けていないのもあります。
しかし、本当に指揮、音楽の表出にはそこまでの素養が必要か?

確かに指揮者はピアノと最低でも他の一楽器を
弾けるようになるのが常識とされています。
それでも楽器は2つ。
オーケストラの他多くの楽器奏者には及ばないのがほとんどでしょう。
では、全ての楽器に対して技術的な指導ができないと、
指揮者の音楽というものは表出できないのか?


・・・これは難しい問題です。
「一流のピアニストへ指使いを指摘するか?!」
「じゃあ未熟なピアニストならいいのか?!」
「未熟ってどこで判断するんだよ!」


私は楽器奏者でも指揮者でもありませんが、
いくつかの指揮者のリハーサルについての発言には
たいていこう書いてありました。

「こんな風な音楽にして欲しい。
 その音楽へ向かうのは、専門職であるあなた方へ任せます」



日本の合唱は盛んな中学校、高校の部活動が支えていますが、
いくぶん教育的というか
「努力一途」、「目標到達」「欲しがりません勝つまでは」
…みたいな匂いが演奏から感じられることがあります。

だから「正しい」音程、「正しい」発声。
その先を考えている人は少ないのかも…なんて感じてしまうのですが。


ここでAZSingers指揮者の相澤直人先生の言葉。

 


良い声を出すことで満足して、
その先にある表現にたどり着かない、
という演奏が非常に多い日本の合唱界。
良い声の人は良い声に固執せずに多彩な表現を追求し、
良くない声の人は声を磨く、この関係ってとても大事だと思うんです。
日本の合唱界の問題点は、良い声を判断できる人は多い一方、
良い音楽を判断できる音楽家が少ない、
ということだと思っています。
(コンクールの審査員についても、です。)

 

http://naotoaizawa.com/post/144657054644/良い声を出すことで満足してその先にある表現にたどり着かないという演奏が非常に多い日本の合唱界良い

naotoaizawa.com



今回のヤマカズ氏の指導。
合唱に対する「音楽」とは何か?
という非常に深い問いを
得られる番組だったと私は思います。


 

 

 

https://www.youtube.com/watch?v=Lxoqg4hvYfQ