円熟と革新が交錯する、合唱の未来へのまなざし。
栗山文昭先生と東混が紡いだ、深く響く時間をお聴き逃しなく。
配信は4月27日まで。
東京混声合唱団 特別演奏会「栗山文昭×東混」配信、とても良かった!
繊細さと高い集中、独立した歌い手が紡ぐ演奏はもちろん、プログラミングにも感心しました。
合唱愛好家以外にも親しみやすい曲を丁寧に歌いながら、名曲を新たな視点で捉え直したり、幻の作品や人気の作曲家への委嘱新作まで。さらにコントラバスとの協演も!
○室内編成で光る《Nänie》の表現力
ブラームス《Nänie》は寺嶋陸也先生編曲のPf+弦楽五重奏版。信長先生によるフォーレ《レクイエム》のポジティブオルガン+弦楽五重奏版も良かったけど、大合唱やオーケストラに頼らずとも、テンポや表現の点で小回りの利く編成の良さが光ります。
栗友会と東混の合同合唱は、抑えた表現ながらブラームスの音楽を十全に。
死者を弔う思いと、残された人間が生きるための力を感じさせてくれた演奏でした。
○《三つの抒情》:60年の時を越えて、いまなおみずみずしく響く詩と音楽
三善晃先生の幻の男声合唱作品「五月」「いづかたに」も嬉しかったですが、白眉は女声合唱《三つの抒情》!
60年以上前に作曲されたとは思えない音のみずみずしさ。寺嶋先生のピアノが導く立原道造の抒情。ひとつの言葉への鋭敏な感性が繋がり歌になり世界を紡いでいく。ソリスティックな歌唱の説得力はもちろん、いわゆる「音響」的、現代的な合唱曲に通じる解釈に頷かされます。
(それにしてもアルト下、音域低いですね~!楽譜を改めて見直したら、高校生には十分に歌えないのでは。東混女声はバッチリ音楽的に聞こえました)
○ 武満徹編曲の「さくら」、誕生の裏話が面白い!
MCでは『東混の中国演奏旅行』がきっかけと話されていましたが、東混団員:平野太一朗さんによると
先日のMCでは『東混の演奏旅行』と話しておりますが、実際は'76年に日本音楽家代表団が中国を訪問した時のエピソードだそうです。
— 平野太一朗 Taichiro Hirano/FLaT (@HiranoTaichiro) 2025年4月20日
現場の編曲が微妙だったと言うより、『東混レパートリーに「さくら」が無かった』ことが契機かも知れません。
詳細はリンクをご参照ください。https://t.co/yYhDI2YHPh https://t.co/GBEyjQ4RwX
先日のMCでは『東混の演奏旅行』と話しておりますが、実際は'76年に日本音楽家代表団が中国を訪問した時のエピソードだそうです。
現場の編曲が微妙だったと言うより、『東混レパートリーに「さくら」が無かった』ことが契機かも知れません。
詳細はリンクをご参照ください。
そうだったんですね!
リンク先も見たところ武満氏の
「田中氏が、そういえばうち(東京混声合唱団)には「さくら」が無かったな、と言われるのを耳にし、上気した気分も手伝って、帰国したら早速編曲しましょう、と口にしてしまった。」という記述があります。
1976年の日本音楽家代表団訪中の1年後に催促され、結局「さくら」が初演されたのは1979年3月の定期演奏会アンコールというから、口約束から実に3年の月日が!
そりゃMC村上さんも「何回桜が咲いても出来上がらない・・・」とボヤきますよね(笑)
平野さん、ありがとうございました。
○林光の世界:洒脱の奥に、怒りと哀しみが潜んでいる
林光先生編曲は、親しみ深い箱根八里、浜辺の歌を美しく聴かせたと思えば、曼珠沙華では恐ろしさを垣間見せ、お菓子と娘は洒落っ気が十分。
そしてこの演奏会で一番印象的だった「死んだ男の残したものは」
気怠げに、時にブルースを思わせるその歌唱は、声高に正義を訴えるのでは無い、現代に即した苦みのあるものと長く心に響きました。
演奏もさることながら、プログラミングも本当に秀逸。伝統を丁寧に守り、新たな挑戦にも踏み込む——その絶妙なバランス感覚。
合唱の世界を広げ、未来に向けて一歩進み、新しい世界を手渡そうと選ばれた作品たち……死を想うと同時に今を生きる自分たちのために。そんな風に受け取りました。
生で聴けなかった方も、もう一度味わいたい方も「栗山文昭×東混」ぜひチェックを!
この“合唱の現在地と未来”を体感できる演奏会、4月27日までの配信で体験してください。