「コンクール出場団体あれやこれや:出張版2012」(その1)

さて、今年も
「コンクール出場団体あれやこれや:出張版」を始めたいと思います!


全国大会へ出場される団体をあれやこれや紹介するというこの企画。
ちなみに昨年の「あれやこれや:出張版」第1回はこちらです。
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20111106/1320576108


元々この企画はWeb文通相手のぜんぱくさんよりお借りしたんですが。
http://talk21self2.blog111.fc2.com/
・・・あれ?珍しく今年は同時スタートのようです。
でも、あっという間に先へ行かれるんだろうな(涙)。


今年でこの企画も5回目になります。
職場・大学・一般A・一般Bという4部門が
来年からはユース・室内・同声・混声と再編成され、
今までの部門の最後の年という第65回大会です。


今年は合唱倉庫さんから
http://choral.nusutto.jp/
何回全国大会へ出場されたか、という
データをお借りしております。
感謝いたします。


ご協力頂いた合唱団のみなさまへ感謝すると共に
最終回まで楽しく読んでいただければ幸いです。








(写真提供:たかさん様)


富山駅から望む富山オーバード・ホール
ちなみにオーバードとは「夜明けの音楽」を意味するそう。



それでは2012年全日本合唱コンクール全国大会 IN 富山。
11月24日の15:20から開始予定の一般部門Aグループ。
最初の団体はこの団体です!






1.神奈川県・関東支部代表
マルベリー・チェンバークワイア
(混声30名・4年連続出場・51回大会から10回目の出場)



昨年、金賞及び日本放送協会賞を受賞した
マルベリー・チェンバークワイア。
指揮者の桑原妙子先生の"桑”を意味するマルベリー。


さあ、この「あれやこれや:出張版」、
この方がいらっしゃらないと始まりません!
マルベリーファミリーの音楽監督である
桑原春子さんに今年も紹介文をいただきました。

今年のマルベリー・チェンバークワイアは、
男声メンバーが転勤や病気療養で人手不足になり
母体の小田原少年少女合唱隊から
高校2年生の二人に手伝いに加わってもらっています。
男声は、小田原のOBと外部メンバーと半々です。
テノールもバスも、あと2,3人ずつ増えれば、
どんなに楽か・・・
という状況ですので、歌ってみたい方は、
お気軽にご連絡ください。


課題曲はG1です。


自由曲は、ロシア、エストニア、アメリカの宗教曲3曲です。


1. 『Three Sacred Hymns(三つの宗教歌)』より II
 詩:ロシア正教会の主イイススの祈り  
 作曲:Alfred Schnittke (1934-1998)


シュニトケ旧ソ連のドイツ・ユダヤ系の作曲家で、
バッハ、マーラーからベルク、ショスタコーヴィチまで
様々な作曲家の影響を受けました。
1984年、シュニトケが50歳のときに書いた
『三つの宗教歌』の第2曲は
「主イイスス・ハリストス、神の子よ、
 我、罪人を憐れみたまえ」
というロシア正教会の短い祈りを歌います。
イイスス・ハリストスはロシア語で、
イエス・キリストにあたります。



2. Kyrie 
 作曲:Pärt Uusberg (1986- )


ペルト・ウースベルクは、エストニアの作曲家で弱冠26歳。
俳優・作曲家・合唱指揮者と多彩な才能を発揮し、
2007年に主演したエストニア映画『クラス』は
チェコやポーランドの
国際映画フェスティバルでも表彰されています。
また、エストニア国内で多数の主演男優賞も受賞しています。
俳優活動の傍ら、児童合唱団の指揮者をつとめ、
合唱曲も数多く作曲しています。
Kyrieは、昨年トロサのコンクールで
ウクライナの合唱団の演奏を聴き
是非、歌ってみたいと選びました。
本邦初演です。



3. The Conversion of Saul (サウロの改宗)
 詩:新約聖書の使徒行伝9章より
 作曲:Z.Randall Stroope (1958- )


3曲目は昨年に引き続き、アメリカの作曲家・合唱指揮者
トゥループの作品。2004年に書かれたものです。


さて、曲の背景の説明が
ちょっと長くなってしまうのですが・・・。
サウロは熱心なユダヤ教徒で、キリスト教徒を見つけては、
鎖でしばりあげて、殺害するという迫害を繰り返していました。
この日も、キリスト教徒を捕らえる許可を
ユダヤ教会から取り付けるために
シリアのダマスカスへの道を急ぐ途中でした。
ところが突然、天からの激しい光に打たれ、
馬から投げ出されたサウロは
目が見えなくなってしまいます。
その真っ暗闇に「サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか」と
一筋の光のような声が響きます。
復活したイエス・キリストが語りかけたものでした。
そして、アナニアというキリスト教徒が
神のお告げにより祈ると、
サウロの目から鱗のようなものが落ちて、
再び目が見えるようになります。
「目から鱗」の語源となっている場面です。
この奇跡をきっかけに、サウロはキリスト教に改宗し、
パウロと改名して、キリスト教の伝道に残りの人生を捧げ
聖人として名を残しました。


この曲の激しいリズムの前半は、
キリスト教徒を迫害するサウロを、
興奮して煽る群集の叫び声を表し
「殺せ、苦しめろ、鎖でしばりあげろ! サウロ!」と
ラテン語で捲くし立てます。
対する静かな後半は、
サウロにイエス・キリストが語りかける様子を
「サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか? なぜだ?
ひざまずいて、憎しみを愛に変えよ。暗闇を光に変えよ。
頭を垂れよ、サウロ!」と英語で歌います。


そして、来年から始まる部門編成の
コンクール改革についても一言頂ければ、
という私の願いについては。

身内のマルベリー・クワイアが
コンクールに復活してからの4年間は
毎年、関東大会で「共食い」の恐怖に晒されていたので、
来年からは別々の部門で出られることに、
ある意味、ホッとしています。


春子さん、毎年わかりやすい楽曲紹介をありがとうございます。
荘厳なシュニトケ、悲痛な印象のウースベルク、
最後に足踏みなどでインパクト抜群のストゥループ…と
トップバッターなのに全開運転!の自由曲。
出演した大学生のみなさんは富山観光などせずに
そのままホールへ残っているように!



春子さんからは写真も送っていただきました。
関東大会の写真だそうです。





昨年のマルベリー・チェンバークワイアは
自由曲にストゥループ「我らは再び空の星を仰いだ」 を
演奏したのですが
ことさらケレン味強く表現を強調するのではなく、
高度な深い発声、混声の良くブレンドされた響きの中から
自然と美しさが滲み出てくるような演奏が印象的でした。
実力は折り紙つきのこの合唱団。
毎年書いてますが、今年の一般Aも遅刻厳禁ですよ?








2.長野県・中部支部代表
合唱団まい
(混声19名・4年連続出場・49回大会から10回目の出場)




まい代表Hさんからお話をうかがいました。

課題曲の「鳥のように栗鼠のように」について、
団員にとってはじめは音が難しい印象だったようですが
練習していくうちにこの歌の魅力に引きこまれていきました。
この詩には死を迎える妹への
宮沢賢治の切実さや緊迫感があります。
しかし、作曲者の林光先生はそれだけではなく、
わずかな希望を含めて作曲されたんじゃないか…と
団員の間では語ったりしています。
この作品が気に入ったこともあって、
次の演奏会では課題曲を含む連作「無声慟哭」を演奏予定です。


自由曲の「啄木短歌集」については
高田三郎先生の作品の中では
あまり知られていない曲だと思います。
病魔と戦った石川啄木の強い望郷の思い、
さまざまな心の様相を取り上げた
全8曲から5曲を選んで演奏します。
曲としては素朴な印象で
いわゆるコンクール向けの曲ではありませんが
素朴なんだけれども噛めば噛むほど味が出る、
短い歌の中、啄木が、高田三郎先生 が、自分たちが、
どういう想いを持っているか。
練習していくうちにさまざまな面や意外性が出てきた曲です。


今年の7月、福島での演奏会で全曲演奏しているのですが、
長く練習しているのに今も集中し続けている曲です。
やればやっただけ感じられるものがある曲なのでは。


短歌を2回繰り返すことが多い曲で、
その繰り返しの中、自分たちがどう感じるか、
そして観客のみなさまにどう感じさせるか。


宮沢賢治石川啄木という優れた詩人と歌人というつながりで
思いがけないひとつのステージを作りたいですね。


今年のまいの一番の収穫は、
この林先生と高田先生の
2つの作品に出会えたことだと思います。
観客の皆さんのひとりでも、この曲いい曲だな、歌ってみたいな
と思ってもらえる演奏ができたら最高です。


写真は中部大会での写真だそうです。




Hさん、ありがとうございました!
雨森文也先生が指揮する
昨年の「まい」の演奏は「合唱」という枠を越えて、
表現の極限とでも言うべき演奏だったのを思い出します。
課題曲「やわらかいいのち」は言葉の語りかけ、
そして音楽のつながりが段違いで鮮烈。
自由曲の三善晃先生「その日 -August 6-」も
一幕の劇を観ているようなドラマ性。
「人が声を使う表現の可能性」というものまでをも考えさせる演奏。
この人数こその表現、「まい」にしか出来ない音楽と思いましたし
最初から最後まで圧倒され、涙が滲みました。


Hさんが
「病魔と戦った石川啄木の強い望郷の思い、さまざまな心の様相」と
書かれた5首。



 やわらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに
 病のごと思郷のこころ湧く日なり目に青空の煙かなしも
 ふるさとを出でて五年、病をえてかの閑古鳥を夢のきけるかな
 はずれまで一度ゆきたしと 思ひゐし かの病院の長廊下かな
 あめつちに わが悲しみと月光と あまねき秋の夜となれりけり



「今年のまいの一番の収穫」とまで仰った作品。
「まい」ならではの表現を期待してしまいます。




(明日に続きます)