東京国際合唱コンクール感想:その1(室内合唱部門)

 



第1回となる「東京国際合唱コンクール」へ行ってきました。
海外からは13ヶ国50団体が応募の、文字通り国際的なコンクール。
課題曲は4部門それぞれに人気の邦人作曲家による新曲。
7人の審査員のうち、なんと5人が著名な海外の音楽家。
3日間に渡り8部門別で競われ、最終日に各部門の代表(フォルクロア部門を除く)の団体が競う「グランプリ大会」もある非常に大規模なコンクールです。

 

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https://www.ticctokyo.icot.or.jp/top

 



審査結果はこちらから。
 国際 | 日本 | 東京国際合唱コンクール | Tokyo International Choir Competition



1日目は児童合唱部門とシニア合唱部門。
私が聴きに行ったのは2日目の28日の土曜日から。

東京は暑い!40度越え!!と聞いていたので覚悟していたのですが、近づく低気圧の関係で気温30度ほど。
なんだ朝の岡山よりずっと涼しいじゃないか。

 

 

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 トリトンスクエア。

 

 

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この大会のマスコットキャラクター?がお出迎え。
2日目は9:30から室内合唱部門。
8団体が出場ですが、応募数48団体と全部門でもっとも倍率が高かった部門。
 第1回予選 2018 | 東京国際合唱コンクール

 


そういうわけで非常に水準が高い団体ばかりだったのですが、すべての団体の感想を書いていたら、いつまでたっても終わらないので格別印象に残った団体の感想を。
記した団体の人数は不正確な場合があります。

課題曲は信長貴富先生による松尾芭蕉の俳句「閑さや岩にしみ入る蝉の声」を英訳した無伴奏曲「How still it is here」


最初に出場したシンガポールから来たThe Vocal Consort

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見た目は10代から20代前半、声も印象のままユース系なんだけど、この団体が素晴らしかった!
この大会で超える、いや並ぶ団体はあるのか?と呆然としてしまいました。
「The Vocal Consort」を聴けただけでも東京に来た甲斐があった!
…と思ったのだけど、1位ではなく別の意味で呆然とすることに。
(後日発表の審査結果ではなんと89.6点金賞、0.9点の差で2位!

課題曲「How still it is here」の発声が豊かでかつ柔らか。
フレーズがなめらかに息長く流れ、前述のように響きはユース系の清廉なもの。
リズミカルな部分の入り、音の重ね方、キメのハーモニーも良く。

Heinrich Schütz「Die mit Tränen säen werden mit Freuden ernten」は弱音の緊張感。
パートごとの音量の増減、響きも立体的で、音が目に見えるほど。
フォルテッシモも耳に障らず、かつ和音の求めるイメージを的確に。

Blake R.Henson「My flight for Heaven」は一転して音楽が変わり温かく柔らかい音が。
子音の出し方もまろやかに。
もちろん響き、声の当て方も変えてきます。
演奏が良かったのもあるけれど、今後レパートリーに加えても良いのではと思わせる佳曲。
最後のピアニッシモ、声を浮かせた実に繊細な表現に、痺れました…。

  
↑ このコンクールでは無い昨年の演奏で、人数も多いですが、伝わるものがあると思います。


Rangga Aristo Kulas「Dies Irae」はテンポとリズム感がとても良く。
この曲もレパートリーにお勧め。
フレーズ中の早い言葉使いでもしっかり抑揚があり。
スピーキングコーラス?で歩き回り、手を上に差し出す演出も決まっていました。

 

このように水準の高さはもちろん、音楽性の幅広さ、豊かさ、繊細さが素晴らしかったので、代表に選ばれなかった結果に驚いてしまったのですが、別部門の代表となったので胸を撫で下ろし。
というか、こんな団体が最初に聴けてしまうのか…と、このコンクールの水準の高さに恐ろしくなった次第。



日本の団体も良かった!
5番目に出場のマルベリー・チェンバークワイア(女声11、男声7)は大人の発声と音楽で安心感を。
Palestrina「Super flumina Babylonis」は落ち着きのある、流れが気持ち良い音楽。
信長先生の課題曲も空間の広さを感じさせ。
全日本でも演奏された「クーナウリン山」は激しさ、緊張感が増し。
フィリピンの数え歌「Kaisa-isa Niyan」もリズム軽やかに楽しげで、全体的にレベルアップの演奏!
ちなみに金賞同率5位?(87.1点)。

古橋富士雄先生指揮のレガーロ東京は初めて聴く、白のドレスが目に鮮やかな女声15人の団体。
のびやかに練られた発声で、土田豊貴先生編曲「さくら」を新鮮な響きで聴かせ、松下耕先生「謡舞」は舞台効果満点で十分に日本を感じさせました。
金賞同率5位?(87.1点)で記された順番はマルベリーよりも上。



さて、会場の第一生命ホールはとても良い響きのホールなのですが、全日本の全国大会ではいつも大ホールで演奏し、今ひとつ声がこちらに届かない印象だった北海道からのウィスティリア アンサンブルは最初の第一声から「響きが全く違う!」と別団体のような感想が出て。
審査員でもあるJavier Busto「Ave Maria gratia plena」から大人の、輝く声が会場全体を満たす!
同じくBusto「Magnificat」は中間部のリズムが全身で表現され(…とは言っても身体は動かず)、落ち着きと優しさも感じられる演奏。

印象が大きく変わったのは広島のMen's Vocal Ensemble“寺漢”も同じく。
Veljo Tormis「Ühte laulu tahaks laulda」はフォルテッシモの箇所がバランス良く、響きも優れていました。
なめらかなフレーズのテノールも好印象。
最後に演奏された「Limu limu lima(スウェーデンÄlvdalen地方の民謡。編曲:Sofia Söderberg)は歌の深さ、抒情が染みてくる好演。
全体に基礎力が大幅に上がったような感想を持ちました。
金賞4位(87.3点)で日本の団体としてこの部門で最高位。



全日本の室内合唱部門は大ホールを少ない人数で鳴らす必要があり、それは運営上やむを得ない部分もあるのですが、本来の「室内合唱」の本質から外れる印象もあったため、この大会で大きく印象が変わった20人前後の日本の2団体の演奏は、改めて「室内合唱とは?」と自身に問い直す良い機会となりました。


海外団体の感想の続きを。
このコンクール、特筆すべきは「演奏中の録画はスマートフォンに限りOK!」というもので。
拍手の間に録画開始を…との注意が守られず、開始音が演奏中にあちこちから響いたりしましたが、非常に画期的なコンクールです。
今年、神戸で聴いた国際コンクールでも(推奨はされていませんでしたが)海外の人たちが舞台にスマホを向け録画しているのを経験していたので、国際的な流れなのかな。


香港からの九龍華仁書院男聲合唱團(Wah Yan College Kowloon Boys' Choir)は中学から高校生と思われる若い年代の男声合唱。

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深緑のブレザー24人で、課題曲はバスも胸に落ちずテナーもなめらかに旋律を紡ぐ、大変上質な響きのグリークラブの印象。
Alcadelt「Ave Maria」は明るく広がりのある発声が魅力。
Grieg「Brothers,Sing On!」はこの年代ならではの若々しさが弾け。
中国のフォークソングの編曲「黎明之歌(Song of Dawn)」は雰囲気を変え、柔らかく繊細に、フレージングもしなやかに。
最後に演奏されたTormis「Kaksikpühendus」もバランスが良く、フォルテ、ピアノとダイナミクスで分断されがちなこの曲で緊張を保ちながら流れる好演奏でした。
全体に若さに満ちた、しかし粗野にならない均質で明るく気持ちの良い演奏。
「男声合唱ってズルいな!」と思うような(笑)。
こういう整った響きの、しかも若い年代の男声合唱は、日本では表現が裡にこもりがちですが、まったくそんな気配を聴かせず、常に外へ発信されている。
初等部から高等部、あわせて150人の5合唱団からの選抜メンバーだからかもしれませんが、日本との違いが面白かったです。
室内部門では金賞3位(88.2点)。

 

https://www.facebook.com/Ace99Cultural/videos/b2-equal-voices-youth-wah-yan-college-kowloon-boys-choir/10154688147210863/

↑ このコンクールでは無い、昨年の演奏ですが雰囲気は伝わるかと。





室内部門での金賞第1位(90.5点)、フィリピンからのUniversity of Mindanao Choraleは女声男声12人ずつ。

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女声はスパンコールまぶしい銀色のドレス。
男声は薄いブルー濃いブルーで真ん中に分けられたシャツ…と見た目から異国を感じさせます(笑)。
プログラムに記された曲順と違っているので(海外団体はそんなのが多かった…)、ひょっとしたら違う曲の感想になっているかもしれませんが。
Pamintuan「Pater Noster」はひそやかな女声からの熱く説得力のある広がりとダイナミクスの幅広さ。
Monteverdi「Cantate Domino」はやや重く、「E」の母音も狭く、リズムも縦で横の流れが無く、この団体としては「?」な演奏。
課題曲は熱さで持って行く! ピアニッシモとのメリハリもあり、課題曲を演奏された中で歌心を非常に感じさせました。
最後に演奏されたNico Alcala「Three kalinga Chants(Traditional kalinga Chants)」は中央に女声が座り、その女声のエコー効果、男声は杵をつくような動作など、舞台効果が素晴らしい演奏で、見事にステージを締めました。
  

 

 

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全体にプログラミングの妙を感じさせたのは海外団体が多かったです。
規定ではルネサンス・バロック時代の曲を1曲以上入れ、演奏時間は曲間を含み13分00秒以上15分00秒以下、さらに課題曲はどの順番で入れても良いとされているのですが、日本の団体はまじめに課題曲を最初に演奏するのに対し、海外の団体は自団の多彩な顔を「どうだ!」と見せながらの流れで課題曲を位置づけ、さらに最後へお国柄を写した演出効果のある作品で、強烈な印象を残す団体が多かったように思います。

 


ルネサンス・バロック、ロマン派の選曲については、次の同声合唱部門の感想でも書きたいです。


(同声合唱部門感想に続く)