東京旅行記その4 銀座のバー 2

柔らかな笑顔で現れた女性のバーテンダーさん。
この人こそ、フォーシーズンズの店主のお一人、藤谷さん。
帯広でバーをされていた藤谷さんは
東京のバーテンダー勝亦さんと知り合いこの「フォーシーズンズ」を開いた。


藤谷さんは雰囲気が明るく、楽しく、つい話し込んでしまう。
「北海道の四季と比べると、
 東京の四季は春・夏・秋、ちょっと寒い秋、ですね」
との言葉に同意したり。
藤谷さんが北海道出身だからか、
肴にも北海道産のものが多かったり。



北海道産 骨付きソーセージ
(盛り付けが立体的で美しい!)



ぽろっと
「銀座のバーって、もっと敷居が高いのかと思ってましたけど
 そうでもないんですねー」と言ってしまう。


あらっ、という顔をされ。
「もちろん銀座にも緊張感があって
素晴らしいバーはたくさんあるんですけど…
ウチ(フォーシーズンズ)はそういう雰囲気じゃないですねー」


ほうほう。
他にも銀座と言っても場所によって
それぞれ雰囲気が違う、などの話のあと藤谷さんが


「銀座で一番銀座らしい時間って御存知ですか? それは…」




いやあ良い店だった、と大変満足しフォーシーズンズを出て
次の店へ向かう。
歩く途中、何か鳴っているな、と思ったら
風鈴売りが。
まだ蒸し暑い風に吹かれ風鈴が涼やかに鳴っている。



ビルの階段を下がり地下へ



Bar Ginza Zenith(ゼニス)



カウンターは7席で後ろにはテーブル席。
先程のフォーシーズンズよりはやや小ぶりな店だ。


カウンターの前にあるフルーツを見ていると
店主の須田さんが目の前に。
真面目で誠実そうな印象の男性だ。
「何にいたしましょう?」


そうですね、フルーツを使ったカクテルを…との注文に
「では…」とプラムを取り作り始める。
その所作の美しさ!
速い、的確、無駄がない、というだけではなく、
その手の動きそのものが美しいのだ。
へえー、と飲む前から感心していると
ショートスタイルのカクテルが出される。



口に含むと…ほお、同じプラムを使ってもこれだけ違うのか。
プラム果汁、酒がなめらかに一体となっている。
過剰にエアリーではなく、きちんと液体として仕上げた印象。


ふたたび銀座の話や私の近所のバーマスターの話などを。
最初の真面目で誠実な印象というのは正しく、
人との繋がりをとても大事にされている方なのだなあと思う。
やはり丁寧に作られたマンハッタンを飲み、
銀座のバーを堪能した、とお勘定をお願いする。
地下のゼニスから地上へ。
不案内な私のために店の外へ出て、見送って下さる須田さん。
時刻は午後11時半。


・・・先程までの光景と違って、
ホステスの移り替りの時間だろうか。
着飾ったドレスや華やかな着物の女性たちが
歩道からはみ出しそうな数でそれぞれ移動している。



そうか、これが藤谷さんの言っていた
「銀座が一番銀座らしい時間」、か・・・。


艶然とした微笑、綺羅をまとった女性たち、
それぞれが星のように輝いている。
風に乗ってどこからか風鈴の音が聞こえてくる。



「夜の蝶、ですね」


そう須田さんが横でつぶやいた。
私は視線を変えずそのまま頷いた。



(おわり)