2010年読んだ本ベスト10 (ノンフィクションなど) その3


第6位 明石昇二郎「グーグルに異議あり!」


グーグルに異議あり! (集英社新書 537B)

グーグルに異議あり! (集英社新書 537B)


集英社新書だからあまり期待しないで読み始めたのだけど、
これは力の入った、かなり興味深い本だった。


この本で扱われている事件の大まかな流れは
「Googleブックス訴訟から修正和解案までザックリとまとめてみた」
読めば分かるのだけど、
著者の本を勝手にスキャンし公開して
「イヤだったら期限までに申し立ててね」
という非常に分かりづらく一方的なグーグルの主張。


読み進めていくと、
あまりに勝手で傍若無人なグーグルの
「やっちまったもん勝ち」の姿勢に
怒りを通り越してあきれてくる。
そしてグーグルはもちろん文化庁、警視庁など各方面に働きかけ、
ついにはドイツ、アメリカへ行ってしまう著者:明石氏の行動力には感心。


北上次郎氏の言葉を引くが 
「すべての書籍をスキャンして検索の対象に含める」のが
「野心的かつ高尚な社会貢献」だというグーグルの考えであり、
それこそ「自分たちの理想は誰にも受けいられるはずという独善性」と、
「エンジニアゆえの短絡性」という言葉に非常に納得する。


「俺(たち)こそが正義!」と思って行動する人間の話の分からなさって、
ここまで行くと恐怖だよなあ、と感じる本。
あとこの本は週刊プレイボーイ連載だったそうで、
エロ以外にサブカルを担ったり、
巨悪に立ち向かうかつてのエロ本の良き姿勢を見て
「やるじゃん!週プレ」と思ったなあ。





グーグル関係からもう1冊。





第5位 ケン・オーレッタ「グーグル秘録」


グーグル秘録

グーグル秘録


最強にして最も危険なネット企業グーグル。
すべての産業の基盤を破壊して、グーグルが創造する新たな世界とは? 
グーグルによって存在を根底から揺さぶられる側にも徹底取材!(amazonより)


「グーグル秘録」は新聞、出版、音楽、テレビの
各伝統メディアの幹部にも徹底的な取材をしているのでかなりぶ厚い本。
グーグル幹部にだけに絞ればおよそ半分の厚さになるだろう。
しかし、「伝統メディア」からの視点を取り入れたことによって、
グーグルという企業の凄さ、恐ろしさが実感できる。


リベートを介在させない優れた検索であっという間に世界を席巻したグーグル。
しかしその発想は、優れた知性とともに、効率を何より優先し、
技術を至上のものとするエンジニアという人種に由来する発想であることから、
伝統メディアとの激しい軋轢を生む。


グーグルブックス(全世界の書籍の電子化)へ真っ向から戦った
「グーグルに異議あり!」(明石昇二郎)で書かれていた、
著作者との契約等をすっ飛ばして、
「これは多くの人のためになるから」と、
何万冊の本をスキャンしてUPしてしまうグーグルの傲慢さ。


「邪悪であってはならない」はグーグルのモットーだそうだが、
「ではナチスは自分たちが邪悪だと思っていたろうか?」
という著者の呟きに考えさせられる。


各新聞のニュースをかすめとる「グーグルニュース」や、
テレビ番組や映画のコンテンツの違法UPの場となる「Youtube」。
伝統メディア衰退の責任をグーグルだけに負わすのは間違いだと思うが、
この状況が進んだ場合、
大本のコンテンツが存在できなくなるのでは?という危惧が湧いてくる。


恐ろしいのはある種のヒロイックファンタジーのような物語を
グーグル創立者が体現していること。
すなわち、若き勇者のブリンとペイジが、巨大で無駄が多く効率が悪く、
既得権益を受ける者が多い古い世界を、
「正義のために」新しい世界へ作り変える、という・・・。


こういう意識は自分の行動原理にも通じる箇所がある。
では、作り変えようとするその世界の全容を、
その世界が滅びてしまった後を、正しく想像出来るか?
というと非常に心許ない。


凋落を続ける新聞社。
ネット化を進めてもネット上での広告収入では
どうやっても世界各所の特派員は賄えきれない。
最終的にはニュースソースの質の下落。
同じく凋落するテレビ、映画業界。
ネットでCM抜きの映像を見られてしまうため、視聴率は激減し、
スポンサーは付かず、最終的には制作できなくなり、コンテンツの質は低下する。
もちろんこれはグーグルの為だけではない。
しかし、目先の便利さ、正義感によっての行動が、
近い未来には草一本生えぬ世界を出現させてしまうのか、と
いろいろと考えてしまう。


そしてもうひとつの危惧。
検索、視聴、購入などでグーグル製品を使用した結果、
個人情報は本当に記録されていないのだろうか?
グーグルは当然否定している。
だが、ジェフリー・ディーヴァーの書いた
「ソウル・コレクター」のような裏個人情報が
絶対集められていないと思うのはあまりに楽観的ではないだろうか。


ソウル・コレクター

ソウル・コレクター


・・・などと書きながら、今日も私は画面右上の「Google Toolbar」に
語句をいくつもいくつも入力し、検索する。



(つづきます)