2011年に読んだ本 ベスト11(小説編) 11位〜6位まで


2011年に読んだ小説で良かったものを挙げてみると
15冊ほどになりました。
同じ作者の本を除くと11冊。
勝手に順位をつけて、今回は11位から6位まで。
(2011年に刊行された本ではなく「読んだ本」です)



第11位
伊坂幸太郎「バイバイ、ブラックバード」


バイバイ、ブラックバード

バイバイ、ブラックバード


借金に追われ、連れ去られる直前の男が、
5股をかけていた女たちに別れを告げに行く連作短編。
登場するキャラクターたちの面白さ。
シンプルな物語と繰り返しはコント、いや寓話的な趣が。
単純ながら深く、良い読後感。
「バイバイ、ブラックバード」は
太宰治の「グッド・バイ」から想像を膨らませて作ったそうで、
「グッド・バイ」も読んでみました。
太宰治がこんなにギャグセンスがある作家とは思わなかった!
「グッド・バイ」に収録の「メリイクリスマス」も良かったです。
(…ってあれ、太宰作品の感想になってるがな)




第10位
中田永一「くちびるに歌を」


くちびるに歌を

くちびるに歌を


私の詳しい感想はコチラ
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20111210/1323445392
最新号のハーモニーで1面広告だったのに驚いた(笑)。
題材になったドキュメンタリー番組、どこかで見れないかなあ。





第9位 
佐藤多佳子「聖夜」


聖夜 ― School and Music

聖夜 ― School and Music


80年代中頃、キリスト教系学校のオルガン部に所属する
18歳の男子高校生。
牧師の父、父と別れドイツへ行った母。
メシアンの「神はわれらのうちに」やELP、
ロックを通して、演奏すること、音楽をすること、
生きていくことを学んでいく青春小説。


佐藤多佳子さんらしい丁寧な取材が成功して、
読んでいるだけでもパイプオルガンを聴いたり、
弾いたりしている気になる素敵な作品。
信仰の無いものが宗教作品を演奏すること、
感情表現と演奏技術、個性、
解釈と演奏の関わり合いなどは
疑問のまま提示されるだけでやや物足りないけど。


それでも演奏することで、音楽を通じて、
善きなるもの、神の存在へ近づくこと。
聖夜という特別な時期の雰囲気が相乗効果を生んで、
柔らかく心地良い雰囲気を作り出す作品でした。
青山学院高等部がモデルだそうだけど、
オルガン部なんてものが存在するんですねえ。



佐藤多佳子さんの作品では他に「第二音楽室」という
小学生から高校生までの音楽を題材にした中短編集も良かったです。

第二音楽室―School and Music

第二音楽室―School and Music

特にリコーダーアンサンブルで中学生の淡い恋心を描く
「FOUR」がリコーダー演奏の描き方、心理描写ともに佳品。
中学校のリコーダーアンサンブルの存在は地域性がかなりあるらしく
札幌の出身中学で良いリコーダー部があった自分にとっては
卒業式の厳粛な雰囲気の中、冷えた体育館で美しく鳴り響く
リコーダーアンサンブルの音色は思い出深いのだけど
全国的には珍しい存在だそう。
(そういやMIWO演奏会でのリコーダー奏者さんも札幌出身でした)





第8位
あさのあつこ「炎群のごとく」


火群(ほむら)のごとく

火群(ほむら)のごとく


江戸から離れた藩を舞台にした時代小説。
元服前の少年剣士たち。
その中で藩随一だった剣士の兄を殺害された、
弟の林弥を中心に物語は動き出す。
剣を手に成長していく少年たちの輪に、
藩家老の妾腹の子であり剣の天才、
透馬が江戸からやってくるが・・・。


同じ作者の話題作「バッテリー」のように
自分の拠り所とするものに全てを傾ける一本気な少年を描かせると、
この作者は本当に上手い。
少年たちの成長や心の機微が鮮やかに、そして細やかに表現され、
兄の死の謎というミステリー要素が見事に作品を貫いている。


335ページという、昨今の小説としてはそんなに長い作品ではないが、
どのエピソードも印象深く、登場人物が掘り下げられた読後感があるのは、
きっと作者の中にもっと深く広い世界があり、
この作品はそれを圧縮したものだからだろうなあ、という気がする。
テンポ良く読後感良し!





第7位
窪美澄ふがいない僕は空を見た


ふがいない僕は空を見た

ふがいない僕は空を見た


アニメのコスプレ主婦と体を重ねる男子高校生の「ミクマリ」
(「女による女のためのR-18文学賞」大賞)を始めとする、
5編の連作短編集。
著者のデビュー作で、この本により山本周五郎賞も受賞。


どろどろの性行為模写、不倫関係から「その手の」作品と最初は思うが、
同じ世界を共有する主人公が変わる次の短編へ移ると、
体液と肌の模写に、
一種の清らかさとまで思うほどの魅力がどんどん湧いてくる。
読み進めるのを止められない、圧倒的な磁力を持つ作品。


男性が主人公の視点では、やっぱり
「女性が書いている作品だなあ」とは思うものの、
女性ゆえの生理、そして妊娠、出産という助産婦の模写が、
全体に体温を感じさせるような、
作品世界、登場人物にリアリティをもたらす。


どろどろの性行為模写でも、どこかに清潔感があるのは、
おそらく嗅覚の記述が無いから(見落としていたらごめんなさい)。
これは故意なのか、それとも窪氏自身の嗅覚に問題があるのか、
気になるところ。
いずれにせよ、窪氏の次回作が大変楽しみ。





第6位
吉村昭「漂流」


漂流 (新潮文庫)

漂流 (新潮文庫)


江戸時代に、阿呆鳥しかいなく水も無い無人島へ漂着した者が
12年もの歳月を経て故郷へ帰るまでを書く。
圧倒的な自然の模写と人間観察!
生き抜くための知恵、不屈の魂。
特に何年もかけて流木を集め
船を完成させる箇所は素晴らしい。
生きるということ自体を問う作品。


この作品、小学校の時にラジオドラマを聴いて印象に残っていたんだけど
(聴き終わった後も阿呆鳥の鳴き声が耳にこびりついてねえ…)
ン十年経って原作に触れられて良かった。


吉村昭作品は実際の脱獄囚:白鳥由栄をモデルにした小説「破獄」も良かったし、

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)


今年出版された臨時増刊吉村昭が伝えたかったこと」も良かったなあ。

文藝春秋増刊 吉村昭が伝えたかったこと 2011年 09月号 [雑誌]

文藝春秋増刊 吉村昭が伝えたかったこと 2011年 09月号 [雑誌]

http://www.bunshun.co.jp/mag/extra/yoshimura/index.htm
震災を記した文章に、
人間は基本的に変わらないし学ばないものなんだな…と嘆息したり。



(続きます)