ノンフィクション(エッセイやインタビュー含む)の
「2012年に読んだベスト10」を紹介。
- 作者: 春日武彦
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2011/02/01
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
長年、精神科医として活躍してきた春日氏の臨床の現場と
それに通じる詩や小説の作品世界。
日常とは異なる、ふとした言葉が世界を大きく変えることになる。
言葉の力を信じているという点では
「世界を変える呪文」の歌人:穂村弘氏と似ているが、
春日氏はそこまでは信じていないまでも、
詩や小説の言葉、患者の発言などから、
それに応じる側の視点が大きく変わり、
結果、世界が変わったように視えるという考え。
実作者と鑑賞者の違いとも言えるのか。
非常に感銘を受けた。
春日氏の著作では初の長編医学ミステリー
「緘黙 五百頭病院特命ファイル」も読んだ。
- 作者: 春日武彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/01/28
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
精神科医の生態、思考、治療法が
さすが現役精神科医の春日氏なだけあって
非常に情報量が多く興味深く読めとても面白かった。
狂気というものへの自分の誤解を修正してくれる。
そういえば春日氏の
「ロマンティックな狂気は存在するか」も良かったなあ。
「臨床の詩学」で紹介されていた詩や小説から
(物凄くマイナーな作者が多く、鑑賞者:春日氏へ驚きの念が湧く)
短編:エイミー・ベンダー「無くした人」
(「燃えるスカートの少女」より)が紹介されていた。
- 作者: エイミーベンダー,Aimee Bender,管啓次郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/12
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 76回
- この商品を含むブログ (79件) を見る
エイミー・ベンダー「無くした人」の粗筋はこんな感じ。
海で溺れた両親のため八歳で孤児になった主人公。
長じて主人公は失せ物を探す名人となる。
近所で評判になったり
自分で隠して見つけふりをしているんだろう?
という毀誉褒貶の中、近所で八歳の息子が誘拐され、
その捜索を依頼される。
「失せ物」を探したことはあっても、
人間を探したことがない主人公は困惑する。
しかし八歳の少年が青いシャツを着ているとの情報を得て、
見事探し当てる。
その晩、主人公は孤児として、何も身につけず、
その結果誰にも探し当てられない自分の孤独を再認識するのだ。
「どこにいったの? ぼくを見つけにきて。
ここにいるよ。見つけにきて。
じっと耳をすませば、
打ち寄せる波の音が聴こえるかもしれないと彼は思った。」
(エイミー・ベンダー「無くした人」より)
第9位
「音楽嗜好症 脳神経科医と音楽に憑かれた人々」
音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々
- 作者: オリヴァーサックス,Oliver Sacks,大田直子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 70回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20120401/1333263921
第8位
木村俊介「仕事の話」
仕事の話―日本のスペシャリスト32人が語る「やり直し、繰り返し」
- 作者: 木村俊介
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/06
- メディア: 単行本
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
ハイパーレスキュー隊員、心臓外科医、鉄道ダイヤ作成者…
さまざまな職種の第一人者:32人へ仕事について訊いた本。
木村氏は取材対象者の本や文章をすべて読むらしいが、
それが功を奏して対象者へ深く入っていき、
非常に興味深く、かつわかりやすい内容。
いわゆる「成功の法則」的、
一面的な切り方だけの本では決して無いが、それでも
「第一人者となる人の多くは、
若い時に同じ業種の人間の大多数とは違う個性の獲得と、
人の何倍もの仕事量をこなせる体力と心のタフさが必要なんだなー」と。
特に「一ミリメートル間隔に数本の描線」という
細密な書き込みの陶芸家:葉山有樹氏の言葉には打たれた。
真剣な仕事を終えた後には体がガクッとなって
「命が持たない」と感じるもの。
でも、仕事ってそういうものだろうなと思う、と語った後で
見る人というのは
「どこに限界があったのか」については非常に敏感です。
「これは相当な犠牲の下に成立しているものだ」と理解する時に、
人はそこに豊かな厚みや深みを感じるのでしょう。
あるものに対して、多大な犠牲の下で成り立っているのか
どうかについては絶対に感知されてしまうから、
こちらとしては一所懸命にやらなければ、
底の浅さが露呈してしまう。
人間が「美」を感じるのは、
頭と体の限界まで犠牲を捧げきったところ、
なのではないでしょうか。
(陶芸家:葉山有樹)
葉山氏の言葉には、
もちろん異論がある人も多いと推察するが、
それでも氏の名前で画像検索してみると、
その言葉の説得力がとても強くなる。
個人的に漫画家の五十嵐大介氏と
フレンチ料理人の北島素幸氏の選択に「おっ!」と思った。
取材者へ深く入っていきながらも、
インタビュアーの木村氏の姿は隠されていて、
取材者のひとり語りのような体裁になっている。
最後は気仙沼の造船技術者が震災後の希望を語る構成も◎!
(第7位からは次回に)