「コンクール出場団体あれやこれや:出張版2013」(その8)

 

 


さあ、室内合唱部門、最後の団体です。
 


11.埼玉県・関東支部

合唱団「あべ犬東」
(混声22名・初出場)


初出場おめでとうございます!


課題曲はG1
Victoria作曲「O magnum mysterium」
自由曲はC.Monteverdi作曲
Sfogava con le stelle(星に向かって打ち明けた)
Si ch’io vorrei morire(こうして死にたいものだ)


指揮者の中尾一貴さんからメッセージをいただきました。
(中尾さんからは
 「例えばピッチのズレの指摘などは耳がいい人にお任せしますし、
  それが発声に紐付く場合は得意な人にお任せするので、
  指揮者は一人と言うよりはみんなで補完しています」とのことです)
 
 
 
初出場ということもありますし、
団も色々な経緯がありましたので簡単に自己紹介させてください。
「結成10年ですが。。。」と指摘されて
初めて10年目なんだと気づいたのですが、
実のところを言えばまだ2,3年目ぐらいの気持ちでいる団員が
ほとんどの合唱団です。
設立当初はコンクールで勝つことを目標としていたと聞いていますが
詳しいことはあまりわかりません。
今、指揮者役を務めている僕も、確か3年目ぐらいに入団したのですが、
当時の代表から、大学から合唱を始めた人間は
入団させるわけにはいかないと
一時ストップがかかるほどコンクールの勝負に
徹底していたように感じました。

学生主体の合唱団が当たる壁の一つに、
団員が学生から社会人になる過渡期のメンバー参加があると思います。
あべ犬東もその例に漏れず、
団員が社会人になるにつれだんだんと活動が苦しくなってきました。
僕自身も就職のタイミングで団を離れました。

しかし、ゆえあって団に戻ることになり、
2011年にやはり合唱をちゃんとやりたいというメンバーと一緒に、
当時の指揮者や運営メンバーなどを変えて
再立ち上げしたのが今の合唱団です。
立ち上げ当初は10人いるかいないかという規模でしたが、
色んな縁があって仲間も増え、今は23,4人で楽しく活動しています。
そのような経緯もあって、
設立当初から残っている4,5名のメンバーの思いと
2年前から新しく吹き始めた風が
混ざり合っているのが今のあべ犬東です。
 
 
 
平均年齢28歳の合唱団。
「あべ犬東」という変わった団名ですね(笑)。
「東」は「関東」かな。
札幌には「あべ犬北」という合唱団がありますし。


山本 この平均年齢が20代の合唱団というのは
   一番難しいところだね。
   大学や若い時に出会った仲間で合唱を続けていく難しさ。
   MODOKIも体験したし。


あー、やっぱり体験されたんですか。


山本 うん。
   女の人は結婚したり出産したり、
   地方にいると関東、関西へ就職で離れたりね。
   そういう状況で仲間たちと
   どういう風に合唱団を続けていくのか。

   MODOKIの一番の転換期は
   自分たちの仲間以外の人間が入ってくれたことなんや。
   違う血が入ってくることね。
   そうしてだんだん地元の人間が増えてきて
   初めて一般の合唱団として成立していく。

   例えば、はじめはOB合唱団でもいいよ。
   そういう合唱団が自分たち以外の仲間を受け入れ、
   地域に根差した合唱団になっていく。
   それが最終的に合唱団が続いていけることだと思うな。

   あべ犬東さんも始まりはうまくいかなかったようだけど、
   それが今も続いたのは違う人を受け入れたからだと思う。


なるほど・・・。
「自分たち以外の仲間」を受け入れる転換期。
重要ですね。
受け入れやすい団の体質や
そうじゃない雰囲気もあったり・・・。

中尾さんからは続けて選曲についても。  
 

再立ち上げにあたっては、やはり基礎から鍛えたいということで、
シンプルな音の中に深い音楽性が多い
ルネサンスものにだんだんと興味が向いてくるようになりました。
そのために課題曲は迷わずG1を選んでいます。
とは言え、今年は今まで以上に
もっと表現を磨いていきたいという思いもあり、
自由曲はほんの少し年代を進め、
よりダイナミックな表現ができるMonteverdiを選びました。
曲は第4版から2曲を選んでいます。どちらも本当に名曲です。
Monteverdiの良さは様々な言葉で語られていると思いますが、
個人的にはシンプルな音の中に
人間の生々しい感情がダイレクトに描かれている事が
魅力の本質だと思います。
その感情のうねりを演奏でどこまで聴き手に訴求できるか、、、
今持てる全てを使ってチャレンジしたいと思います。

 
 
この全国大会に対する意気込みなどがありましたら、という質問には


正直なところ出場できるとは思っていなかったのもあり、
胸を借りるつもりで参加したいと思っています。
けれど、やはり関東で願いがかなわなかった合唱団も
いらっしゃいますので、
自分たちの方が良かったのに。。と思われることなど絶対に無いよう、
全身全霊で舞台に臨みたいと思います。


最後に、聴く人に伝えたいことがありましたら…
 

2年前は県大会で銅賞をとっていたことを思うと、
この2年間でめまぐるしく状況が変わったなと思います。
あべ犬東の特徴は、いわゆる先生と呼ばれる指導者がいないこと、
主母体となるような学校が無いことだと思います。
様々な経験を持っている同年代の仲間が集まって、
同じ視線でわいわいやっています。

これ自体については良し悪しはないと思うのですが、
やはり知恵が足りなかったり、
アンサンブルが安定しなかったり、
という問題にはよく苦しめられます。
しかしその分やりたいことが自由にできる良さもあります。
例えば今年の4月末には発声の方法を大きく切り替えて
1から作り直しました。
また、曲作りや練習の組み立ても、
常に団員同士で相談して行っています。

今自分たちが抱えている問題にしっかり向き合って、
そこから練習を進めていくのはとても大変です。
が、うまくいくと本当にうれしい気持ちになるし、
ぐっとうまくなります。
もちろん団員同士で意見の衝突もあるのですが、
それも成長の糧として、日々楽しくやっています。

まだまだ荒削りな合唱団だと思いますが、
何か光るものを感じていただける演奏ができればと思い
日々がんばっています。よろしくおねがいします。
 

 

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2012年春合宿の写真だそうです。

 




山本 この団体で凄いと思ったのは
   基礎を作りたいからルネサンス作品、
   モンテヴェルディをやろうとするところ。
   志が高い!


そうですね!


山本 ここはホンマ、がんばって欲しいよね!
   …名前の変わった合唱団ってのは応援したくなる(笑)。


そこですか!(笑)


音楽学者の礒山雅先生もご自身のブログの中で

埼玉県大会を審査された時
あべ犬東さんのことを
「あべ犬東、すばらしい演奏でした。
 あのように言葉の内容をひとりひとりの内側から表現する意欲に、
 目を開かれました。」
「いつもクリエイティブな演奏をされますので、

 これからも期待しております。 」と賞賛。
演奏に期待が持てますね!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<室内合唱部門のまとめ>


さて山本さん、室内部門へ出場の団体を
全11団体ご紹介してきたわけですが、
振り返ってみていかがですか?


山本 そうやね、選曲に室内楽的なカラーもありつつ、
   ソレイユさんやVineさんならではの色もあったり。
   ブラームスもあり、
   モンテヴェルディもあり、
   デュファイもある!
   このヴァラエティに富んでいるところ、いいんじゃない?!


そうですね、いわゆる「室内合唱」という王道の選曲もあれば
そこから外れているようで…でもやっぱり意識してるのかな?
なんて思う選曲もあったり(笑)。


山本 いろいろ聴けるのは楽しいしね(笑)。
   あとね、なにより若い団体が多いので
   そこに期待もある。


20代の団員さんがほとんどの団体、多いですね。
そして初出場の団体が4団体です。


山本 ほー、そうするとおよそ3分の1強…。


これは大学ユース、室内、同声、混声の4部門で
1番数が多いんですよ。
それだけフレッシュな演奏が聴けるかと。


山本 部門改正の影響が一番あった部門というわけやね。
   全国大会というものは
   県から支部、さらにその上に位置する上部の大会なので
   そこで繰り広げられる演奏が
   これからの室内合唱部門を作っていく。
   つまりこれからの若い団体が
   この部門ができた意味を作っていくんだと思うな。


「日本の室内合唱と言えば、全日本の室内部門」…と?


山本 そうなる可能性もあるよね。
   だから期待して聴きたい。


できたばかりの部門ですからね。


山本 今まで一般AグループはMODOKI練習のために
   半分聴いたら帰りよったから。
   今回、全部聴けるってのは楽しみやな~(笑)。


山本さんも観客の喜びを堪能して下さい(笑)。
出場されるみなさん、全ての力が出し切れますように!
客席から精一杯応援しています!


山本 私も皆さんの演奏を全身全霊で受けとめます!
 
 
 
 
 
(これで「室内合唱の部」の紹介は終わり
 明日からの「混声合唱部門」に続きます)