慶應ワグネル配信を聴こう!

 

16日に慶應ワグネルという大学男声の演奏会配信を聴いたんですが。
これがもう、全ステージ素晴らしくって!
特に第4ステージの「若者たち」と第5ステージの「Fragments」を繋げて演奏する意味と心意気に、聴いていて涙が止まらず、参ってしまいました。
12月23日まで視聴可能なので、ワグネルの若者たちに賭けてみてください!
是非とも配信を鑑賞していただきたいと思います。
すべての合唱を愛する人へ全力でお勧めします!

 

 


・・・ここから先は読まなくても良いです。


まず第1ステージのF.プーランク「Laudes de Saint Antoine de Padoue」には見事にプーランク特有の音世界が香り、さらに若さも弾ける面白さ。
第2ステージは東京混声合唱団指揮者:キハラ良尚先生を迎えての池辺晋一郎作曲「東洋民謡集Ⅳ」、クライマックスかと思うほど素晴らしかった!
特に緊密で集中した空気の中で奏でられる「刈干切唄」のピアニッシモに惹きつけられ、最終曲のヴェトナム民謡を題材にした作品も、囃子コトバ、打楽器を真似た音など展開するリズムと多様なハンドクラップの見事さ。最後の音へディスプレイ越しに思わず拍手!
男声合唱としてここまでカッコイイ、魅力を出せる作品があったのか?全くのノーマークで悔しさを感じるなど。
プログラムに記されていたキハラ先生へのインタビュー記事「プロもアマも芸術の域へ持って行くのは全く同じ」に強い説得力がありました。
言葉だけでは無く、演奏でキハラ先生はそれを証明してくれたのだと思います。

(↑ 素晴らしいプログラムの文章。無料で読めます)


そんなわけで学生指揮者の第3ステージ上田真樹作曲「鎮魂の賦」は流して聴けるだろうかと思ったらとんでもない!
指揮者と歌い手、いまの若者同士で通じるやわらかな心の機微をこまやかに表現。
学生が指揮をする意味を改めて考えさせ、どんな高名な指揮者であろうと絶対に到達できない音楽だと感じました。


最後は第4ステージ:男声合唱「若者たち」昭和歌謡に見る4つの群像。
第5ステージ:男声合唱とピアノのための「Fragments(フラグメンツ) -特攻隊戦死者の手記による-」 
どちらも信長貴富先生の手による作品を繋げて演奏。
始まりの「戦争を知らない子供たち」から、ワグネルの演奏は真に迫ったもの。
ここでもう、自分の内から込み上げるものがあり。

そして「Fragments」。
特攻隊戦死者のほとんどが、目の前のワグネルの彼らと同年代の20歳前後。
彼らの痛み、「死にたくない」との叫びが直に伝わってくるようで。

最後まで聴き終え、この「若者たち」と「Fragments」を繋げた理由も本当に腑に落ちました。
(こればかりは本当に、実際に聴いて体験してほしい)

指揮者:佐藤正浩先生が振り終え言われたこと。


「今年の卒団する4年生9人。
 コロナ禍で入学した年代なため、六連も四連も開催できず、12月の演奏会の練習が始められたのは10月からでした。
 今年、私が最終ステージで戦争に関する作品をと提案したら、最初彼らに反対されたんですね。
 最後のステージを暗く終わりたくない、あまりそういうものを見たくない世代、歌ったらどんな感情になるのか不安があったかもしれない。
 でも私はどうしても今年は、ウクライナやガザの現状をきちんと見た上で。
 我々は何もできないけれど、自分たちが歌うことによって、気持ちを共有したり、こういうことは絶対起こしちゃいけないんだと。
 ステージ、歌と共に憶えておいてほしかったので、敢行しました。
 最後には彼らも涙して歌ってくれるようになったので、とても嬉しかったです」


この佐藤先生の言葉から、また「若者たち」を見直すと。
指揮をされながら佐藤先生が堪えきれず涙されていたことに、とても共感してしまい。
気づくと自分も泣いてました。今も思い出しながら泣いてしまう。

このステージを最後に離れる卒団生、彼らワグネリアンへ、佐藤先生のすべてを注ぎ込んだ力いっぱいのエール・・・。

 

一点だけ書いておくと。
「若者たち」「Fragments」も大変に涙腺を刺激する作品ではありますが。
佐藤先生もワグネルの彼らも決して「自分たちが涙するために演奏していない」、これは非常に重要だと思います。
歌と合唱という表現芸術の高みへ、自分たちを投げ出す姿勢。
その姿勢が本当に素晴らしかった。


12月23日まで購入と視聴可能なので、是非とも。
日本最高峰の学生合唱団、多彩なプログラム、優れた音楽性……など賞賛するいろんな言葉は出てきますが、単純な次の思いが自分のすべてです。

「一人でも多くの人と、この演奏会を共有したい」

どうかよろしくお願いいたします。

 

 

若者たちへ果てしなく遠い道を、何度もの再起を願うとき。
それは老いた自分の中、まだ存在するはずの若者へ願うときでもあるんですよね。

 

空にまた 陽がのぼるとき
若者はまた
歩きはじめる


「若者たち」
作詞:藤田敏雄 作曲:佐藤勝