- 作者: 中田永一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/11/24
- メディア: 単行本
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中田永一「くちびるに歌を」
公式サイト
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kuchibiru/
長崎県五島列島にある全生徒150人の中学校。
そこへ産休になった合唱部顧問の代わりに臨時として
美人教師:柏木先生が赴任することから物語は始まる…。
柏木先生を慕って入部する不純な男子生徒。
今まで女声合唱だったことからの混乱と男子生徒との対立。
そこへNコン課題曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」を理解しようと
15年後への自分に手紙を書く課題が出されて・・・。
いっやあー、良かったね「くちびるに歌を」!
中田永一作品は前2作の
「百瀬、こっちを向いて」「吉祥寺の朝比奈くん」も読んで
気に入ってたんですけど、この作品もかなり良いです。
合唱人に広く強く勧めたいのは「Nコン」や
「信長貴富」なんて名称が出てくることもあるし、
それ以上に発声練習の非常に具体的な指導、
合唱、声を合わせることの喜び、
そして本番のドキドキなどが見事に伝わってくるからなんですね。
これはかなり綿密な取材をしたんじゃないかなあ。
題材は同じ五島列島にある新上五島町立若松中学校の
NHKドキュメンタリーから取ったと思われるんですけど
(残念ながらその番組、私は見てない!見たい!!)
島に残る者、島から離れる者、という進路を切実に感じる
中学3年生の時期が「手紙~拝啓 十五の君へ~」とシンクロして
胸に迫るものがあります。
自閉症の兄を持つがゆえに島を離れられないと感じる
「ぼっち一級」の桑原くんや
母を早くに亡くし父とも離れ男性嫌いになった仲村さん、
そして東京から来た自称ニートでWiiばっかりやっていた柏木先生など
登場人物の描き方も様々で、飽きさせません。
読み終わった後「キレイすぎるかな〜?」とも思ったけど、
合唱にまだ関わっていない人(特に中学生や高校生)に
読んで興味を持ってもらうには最高の小説と言えます。
ラスト、273ページからの演出は「さすが中田永一!」と唸りましたねえ。
そして本番、柏木先生の足元に置いたギミックも。
中学生という段階ではNコン:コンクール、つまり「勝負」という
概念からなかなか外れることは難しいと思うのですが、
それとは違った解答を作品でいくつも示してくれたことが、
個人的に、本当に嬉しかったです。
そのひとつは
「あなたの歌を、聴かせたい人がいますか?」ってこと。
中学生の15年後を遙かに越えたおっさんには
この作品はキレイすぎます。
でもそのキレイさゆえに、最後はやっぱり涙が滲むんだよな・・・。
読み終わって「なぜ自分は歌ってないんだろう?」
と疑問に思っちゃったよ(笑)。
本当に良い作品でした、「くちびるに歌を」。
次はあなたが読んでみてくださいね。
「【くちびるに歌を持て、ほがらかな調子で】ってね。
それをわすれないで」
松山先生の言葉をおもいだす。
きっと、その通りだ。
どんなに苦しいときでも、つらいときでも、不幸なときでも、
迷ったときでも、かなしいときでも、
くちびるに歌を忘れなければ、だいじょうぶ。
私たちは涙をぬぐって、いつだって笑顔になれる。
追記:「くちびるに歌を 感想」で検索される方が多いので
プロの書評家の文章も紹介します。良いですよ。
【書評】美しさにくるまれた青春小説『くちびるに歌を』 杉江松恋
http://ure.pia.co.jp/articles/-/1745