札幌でのコーラスフェスティバル 後編

 


前編に続き、
札幌でのコーラスフェスティバルで記憶に残ったことを。

 


●70周年特別ステージの特別講師:相澤直人先生

このコーラスフェスティバルが
70回という記念すべき回のためか
作曲家で指揮者でもある相澤先生に曲を委嘱し、
さらに指導もしていただくという企画。

17日に続いて18日も。
この日集まった有志合唱団、なんと400人ほど!




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歌人の栗原寛氏が書き下ろされた詩に作曲された
「朝のソネット」は
こういうイヴェント曲にしては転調も多く、
繊細さと強さが同時に求められる作品。

それを相澤先生は

「フレーズを歌う前にブレスからイメージすること」

「(きのうのゆめと きょうののぞみと)
 歌が現実的過ぎる!
 目は遠くを見ながら、
 楽譜は20メートル先にあるように歌って!」

「そこのmezzo forte、
 Max forteでいきましょう!
 …『まぁまぁフォルテ』じゃなく(笑)」

「(『あ』けはなつ …フレーズ始まり比較的低い音域の音)
 その音だけを独立して歌うんじゃなくて
 『筒に入ったおみくじ』!
 短いのじゃなく、長いおみくじを
 引っ張り出すように歌い、フレーズを繋げて!」


…など笑いと、具体的な身体的イメージを交えながら
とても充実した指導をされていました。
滅多に無い貴重な機会、
できれば練習時間は30分ほどじゃなく、
せめて1時間は欲しかったなあ。

しかし最後は見事に説得力ある演奏を。
この良曲、永く、そして広く演奏されるといいな!

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●若い才能と続けること

18日の第3部と第5部の
ほとんどの団体を聴いたのですが。
以下、良い印象だった団体の感想を。
(団員数の表記は数え間違いがあると思います)



八軒中20人は
ユニゾンの美しさが際立つ「ほたるこい」と
出だしが魅力的だった「てぃんさぐぬ花」が好演。


北海道大学合唱団36人は
千原先生の「どちりなきりしたん」。
柔らかい響きで集中度高く、
かつ演奏の流れ、変化が実に音楽的で
(この学指揮さんヤルな!)と思ったら
名門:浦和高校出身だそうで、なるほどと。


手稲東中はなんとモンテヴェルディの
「愛する女の墓に流す恋人の涙」から2曲。
繰り返しに変化、減衰にこそ恋情の焔を!
…なんてヤボな突っ込みはありますが
この曲を中学生がここまで立派に演奏したことに驚嘆。
ハーモニー誌の座談会で
「中学より高校の指導者の方が
 学生の限界を低く見積もっているのでは?」という意の
ご発言を読みましたが、
こういう演奏を聴くとそれも納得。
男子8人女子19人とやや少人数だけど2、3年生だけ?


リトルスピリッツ36人は20代が中心の若い団体。
三善先生の「子どもは…」
第一声からサウンドへの意識高く、
イメージ豊かな音が鳴り響き、心掴まれる。
表現力が強い男声に対し、
女声はもう一歩前の積極性が欲しいところ。
(男声も伴奏時は女声を聴くべき?笑)
弱音もその魅力を理解されていて、
特に信長先生「私たちの星」で
「この良い曲を世界に伝えてやる!」
という熱さがあったのが良かったです。
あと女声の白ブラウスにさまざまな水色ネクタイが
オシャレで良かった(笑)。


Baum63人
ALEJANDRO D.CONSOLACION II作曲「Pater Noster」
4声揃った時のハーモニーの美しさ。
この曲の持つ神聖さをしっかり表出していました。


THE GOUGE53人
信長先生「ブギ・午前一時」。
観客に背を向けての団員さん。
音楽が始まると…おお!女声の音と動きに生硬さあれど
精一杯この作品の楽しさを伝えようとする姿勢に◎!
特に指揮台の平田稔夫先生が身体を揺らし
全身で音楽を表現していたのも素晴らしい。
こういう選曲があると
一気に「お祭り感」が高まりますね。
演奏してくれてありがとう!


札幌混声合唱団26人は
音量と響きは人数の割にやや少ないけれど
レーガーの作品2曲の
言葉の抑揚をフレーズに上手く乗せ、
弱音と和音変化も繊細で、
ドイツ音楽の品格までも感じさせていました。


アルスハイデンス17人は
今年度連盟加入、若い年代の男声合唱。
(指揮は北大合唱団で学指揮だった加藤さん)
木下先生「わたしはカメレオン」と
Ejnal Eklöf「Morgon」の2曲を。
トップテナーの丁寧でデリケートな歌唱に惹かれる。
気持ち良い音楽の進み方に
センスあふれる表現を散りばめ。
ハモらせ方にも「男声合唱わかってるなー」と唸りました。


札幌山の手高41人は
ピツエッティのレクイエムから「Libera Me」。
発声が全体に優れ、特にソプラノの深さは特筆もの。
この作品に必要な緊張感もあり、
弱音からの音楽が明るく変化する箇所に
繊細さがあり感心しました。
高校生でピツエッティの名作に取り組み
ここまで演奏できるのは素晴らしいこと!


Stella Polarisは16人の若い女声合唱。
横山潤子先生「春風」。
ユニゾンの響きが魅力。
特にフレーズが減衰する美しさと
休符、間が優れていたのが印象的。
センス良い音楽!


弥生奏幻舎“R”15人
Luigi Del Preteというイタリアの作曲家の
「Inno alla Madre della Speranza」を演奏。
情熱的なフレーズから
別の曲?と思わせるほど多彩に音楽が変化する作品。
それらの切り替わりの速さ見事さ!
声の明度、リズム、表現の強弱などなど
“R”の表現者としての幅広さと深さを
どうだっ!と差し出された印象。
4人の男声のうちバスも良かった!


紫陽花の会14人は
年配の女声のいわゆるシルバーコーラス。
しかし、ひとりひとりが実にしっかりした発声で
間宮先生「烏かねもん勘三郎」
福島先生「朝の祈り」「憩い」を
集中度高く、この曲の持つ世界を表現しようとする
前向きの姿勢に好感を持ちました。
齢を重ねても、己の限界に挑戦し続けることが
心を動かすんだなあと改めて思いました。



どさんコラリアーズ26人は
Gjeilo「Ubi Caritas」は
ソリストが優れ、心地良い緊張感。
音楽の運び方とハーモニーも好ましく
良く整備され、神聖さも感じさせる演奏。
Lin,Ming-Chieh「Ave Maria」は
松下耕先生を連想させる音楽?
音楽の変化、なによりスピード感が良かった!



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この北海道、札幌という地で
リトルスピリッツの北田悠馬さん、
アルスハイデンスの加藤伸城さん、
Stella Polaris、どさんコラリアーズの佐古宜道さんといった
若く、センスある指揮者が頑張っていること。

そしてTHE GOUGE、
札幌混声に弥生奏幻舎“R”といった
ベテランの指揮者、長く続く団体から
今もなお変化と挑戦の姿勢を感じられたこと。


ネットに文章を上げてから約20年が経ち、
いろいろ行き詰まりを感じていたので
原点に戻るつもりで聴いた
コーラスフェスティバルだったのだけど
予想以上の収穫がありました。

まず自分は、能力の差こそあれ自らの限界に挑み、
その場に安住しない団体が好きだなあ、と。
お客さんに音楽の楽しみを伝える意志があればなお良い。

私が好感を持っている指揮者のみなさんも、
ステージ上では自らのすべてを出そうとしていました。
人生は短く、衰えはもっと早く。
照れや出し惜しみなど考えず、
瞬間の自分のすべてをどうやって出し尽くすか。
そして、その繰り返しにしか成長は有り得ないのだと
このコーラスフェスティバルで教えてもらいました。

 

 

 

 




お会いしたみなさま、
演奏を聴かせて下さった団体のみなさまに
深く感謝いたします。
大変、励みになりました。

私も、自分の道をしっかり進みたい。



(おわり)