小説「そして、バトンは渡された」とひとつの朝

 



瀬尾まいこさん「そして、バトンは渡された」で合唱曲「ひとつの朝」などが扱われていると聞き、読んでみました。

調べてみたらこの小説、山本周五郎賞の候補になり、ダヴィンチ5月号の「絶対はずさない!プラチナ本」に選ばれ、書評誌:本の雑誌の「上半期ベスト1」にも選ばれているとか。

 

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物語は・・・3人の父親と2人の母親を持つ、17歳の優子さんのお話。
優子さんは血のつながらない親の間で名字が4回変わり、最後に20歳離れた森宮さんという男性と住むことになる。
作中では優子さんがクラス合唱のピアノ伴奏をする関係で、合唱曲の虹や大地讃頌、そしてひとつの朝とそのピアノが丁寧に描かれます。
このひとつの朝を森宮さんと演奏するシーンがとても良いのだけど、それは実際読んでもらうことにして。
これは、血のつながらない者同士が家族になっていく話。

 

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継父継母の話だとどうしても不幸が入り込むのが常だけど、この作品ではそんなことはない。
優子さんも森宮さんに「次に結婚するとしたら、意地悪な人としてくれないかな」なんてことを言う。
絶賛した書評家の北上次郎氏が本の雑誌で「ぜんぜん不幸じゃなくて申し訳ありませんってところから始まるわけで、これが最高に素晴らしい。つまり世の中の常識とは違う新しい価値観の物語なんですよ」と書かれていたが、そう、読みながら、瀬尾まいこさんの魔法にかかったように、新しい価値観の優しさが染みてくる。

最後の、語り手が変わりタイトルの意味が明らかになるところでは、涙が。
「子どもと暮らすことで未来が2倍になる」…素敵な考え方です。

私の母は、大学に入り合唱団で毎晩飲んで遅く帰る自分にぶつぶつ言っていたのだが、男声合唱のジョイントコンサートに招待したとき。
演奏会後にホールの外へ出て輪になり大合唱をする自分を見て、一緒にいた父に「…あれなら飲みたくなるわよねぇ」とつぶやいたという。
母は高卒から働きづめで趣味らしい趣味を持たなかった。


知人の話を聞くと、子どもが未知の未来へ進んでいるとき、自分の分身、有り得たかもしれない自分がそこにいると感じるらしい。
父は「お前が一生懸命やっている世界を知ることで、お母さんの世界が広がるんだよ」と続けた。
「子どもと暮らすことで未来が2倍になる」で、そんなことを思い出しました。


「ひとつの朝」の詩は、歌っていた学生の時にはそんなに感じるものが無かったけど、親から子供へ歌うとなると、意味合いがかなり変わってくるんじゃないのかな。
それは願いであり、祈りでもあって。
旅立つあなたの前に、まぶしい朝のような世界が広がりますように、と。

今の自分があって、次にバトンを渡す相手は。
「そして、バトンは渡された」は読後に未来が広がる作品でした。