東京混声合唱団特別演奏会~田中信昭と共に~感想



東京混声合唱団特別演奏会~田中信昭と共に~ 

東混オールスターズ

 

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覚え書きとしてツイッターへの書き込みを編集して。
プログラムはこちら。

toukon1956.com


8月31日に行われた演奏会の東混アーカイブ、最後まで視聴。

田中信昭先生、ご健在で素晴らしい。
20年ほど前に大谷研二先生が「自分の方が先に……(亡くなるかも知れない)」と仰っていたが。
それはそうとパレストリーナ「教皇マルチェルスのミサ」文化遺産的名曲です。
ルックスエテルナさんの演奏で宇都宮の教会で全曲聴き、込み上げるものが抑えきれず涙したのは忘れがたい……。




三善晃「小さな目」、久しぶりに聴いたがなんてキュートな曲!
今聴いても新しさを感じてしまうが、それは音の使い方だけじゃなく、詩とリズムの中に小学生が「生きている」ことがあるかも。
ところで「ひろちゃん」大好きなんだけど、広島弁の「ちゃびちゃび」ってどういう意味?

https://yoshikisanada.blog.fc2.com/blog-entry-944





「晩祷」も好きな2曲。
高谷光信先生の音楽もある意味無骨、ゆったりと壮大で好み。
オクタヴィストは参加されていたのだろうか?(※参加されていたそうです。ホールに低音が響き渡っていたとか!)
ソリストお二人も曲の雰囲気に合っていた。
この曲もできればロシアの合唱団、教会で聴いてみたいなあ。
学生時代に買ったスヴェシニコフ&ソビエト国立アカデミー・ロシア合唱団のCD、割ってしまい聴けない…と思って調べたら、ほぼ同じ?演奏がAmazonPrimeのストリーミングで聴けるんですね!
久しぶりに聴いたらバス低音が相変わらず凄まじい。

https://www.amazon.co.jp/Vespers-Op-37-Alexander-Sveshnikov/dp/B004NEV9EA






野平一郎「ずいずいずっころばし」の合唱作品は「創る会」あたりで聴いたかな?
原曲を損なわず、かつアレンジの面白さがある。
「この道」など他の曲も聴いてみたい。
「ずいずいずっころばし」の意味には諸説あるのだとか。
説のひとつ、将軍へ献上する宇治からのお茶壺行脚。
それを題材にした松本清張短編「蓆(むしろ)」を読んでみた。
ご威光を笠に着た茶道坊主と地方大名たちの確執。
主人公の乱心のトリガーが題名と重なり、「松本清張、やはり上手いなぁ」と感心。



西村朗「レモン哀歌」、他の方も言及されていたが「永訣の朝」を思い出す。
高村光太郎のこの詩、他にどなたが作曲されているのか検索したら、鈴木憲夫氏(これは予想通り)、鈴木輝昭氏(録音があった)、あと平吉毅州氏のがあり、これは聴いてみたい。




シェーファー「ガムラン」。
芸能山城組、西村朗「ケチャ」なんて作品はあるけど、この路線の合唱作品は他に聴いたことが無い気がするなあ。
ミニワンカも会場にいたかった!
東混委嘱の他作品も聴いてみたいです。


関連してR.マリー・シェーファー「音さがしの本 ≪増補版≫ リトル・サウンド・エデュケーション」読む。
子供たちへ向けたサウンドスケープの本。
音から世界を知る。
自分の身体と音の関係性。
さまざまな音へ自身の記憶と感情を繋げる。
「今日聴いた音の中で、いちばんきれいな音はなんだったろう?」


再読なのだが、増補版は初めて。
巻頭の「増補版に寄せて」が素晴らしい。
シェーファー氏が武満徹氏と京都の公園を散歩した日のこと。
武満氏がその公園で太古の昔に演奏された雅楽の話のあと、シェーファー氏はこう記すのだ。


「今は何も聞こえない。でも私は、徹が大昔の儀式音楽の話をするにつれ、木々のざわめきに混じって雅楽の音が公園を静かに摺り抜けていくのを聞くことができた。私たちは話すのをやめ、その美しい音を想像した。決して忘れることの出来ない経験だ。」

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大谷先生のブラームス「祝祭と格言」も細やかな感情の襞と、切なく、時に明るい旋律が絶妙に合い。
ラストの「Amen」は演奏前の先生の言葉もあり、胸に迫りました。
この曲もテキストと照らし合わせて、ちゃんと聴こう……




山田和樹氏指揮、上田真樹先生「夢の意味」。
表題作、無伴奏からの萩原麻未さんの優しい雨のようなピアノに涙が誘われる……。
やはりこの曲は夢のようにぼんやり演奏しちゃ駄目なんだな。
現世に夢、すなわち理想を生きるがごとく、自身と世界に生きることを力強く問いかける姿勢が無いと。

「いま生きている!」と思わせる山田氏の指揮も胸を熱くさせてくれました。
これは名演と言っても良いんじゃないでしょうか。
オケ版のCDはあるけど、山田和樹&萩原麻未コンビで録り直し販売して欲しい。

この「夢の意味」の演奏で作曲家:藤倉大氏のこのツイートを思い出しました。

「文化とは耕すこと。耕し続けなければ収穫は得られず、手を止めれば、人間は人間らしく生きていけない。演奏を届けることをわれわれは命をかけてやっているし、命がけで音楽を楽しまなければ」


「命がけで音楽を楽しむ」、そんな決意が強くこもった演奏だったと。



アンコールは田中信昭先生の指揮、そして他指揮者、ピアニストも含めた全員で「赤とんぼ」。
(三木露風作詩/山田耕筰作曲/篠原真編曲)
これは東京混声合唱団第一回演奏会でも歌われた曲だとか。

昨年の演奏ですが、YouTubeに映像がありました。

www.youtube.com

 

多彩なプログラムと指揮者の個性が顕れ、大変良い演奏会でした。

 

そして田中先生、いつまでもお元気で・・・。