観客賞スポットライト 混声合唱部門 最終回

 











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岡山後楽園 ©岡山県観光連盟

 

 

 

 

 

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岡山の天気予報。
水曜の時点なので外れる可能性もありますが、土日の雨の心配はどうやら無さそう。
日中は暖かく快適。
陽が沈むとけっこう寒くなりますね。
上着が一枚必要な感じ。

 


11月1日から連載してきたこの「観客賞スポットライト」も今日で最終回。
混声合唱部門、最後の2団体をご紹介します。

 



昨年のチャンピオンの登場です!

 

 


9.東京都・東京支部代表

Combinir di Corista

(39名・7大会連続出場・第61回大会から12回目の出場)


団HPによると。
多様なレパートリー、すなわち「品揃え」にこだわり、コンビニエンスストアーにちなんで団名を「コンビーニ・ディ・コリスタ」とされた、通称コンビニさん。

前回、前々回と混声合唱部門第1位(文部科学大臣賞)。
さらに観客賞でも第2位と人気。

一昨年の感想では


課題曲G4、一人一人でちゃんと歌える人たちが
合唱の醍醐味のようなものを掴んで歌えば
こういう演奏になるのかなと思って。

自由曲Paul Crabtree
「The Valley of Delight」
音楽の移り変わりもとてもなめらかで、
必要な時は劇的に変化していた。

Ēriks Ešenvalds「Nunc Dimittis」。
うっとりするほどの響き…
でもその響きに甘えて無かったですね。

横綱相撲というか、
すべてにおいて余裕を感じてまさに自由自在。
これだけの精鋭が集まった混声部門の中でも
声やハーモニーの精度が
頭ひとつ抜けているというか。

課題曲のプレミアム感、
自由曲のドラマチックさや宇宙のような美しさ、
コンビニだけの音楽を感じました。

…と非常に好評でした。


コンビニ店員さんからメッセージをいただいています。 

 

 

こんにちは、東京都から出店いたしますCombinir di Coristaです。
長きに渡る苦難を経て、再び全国のステージで演奏できる、しかも2008年に初全国出店を果たした「岡山」の地に集える喜びを店員一同かみしめております。

課題曲「O salutaris Hostia」は、苦難の中で救いを切望するテキストではありますが、歌曲的なパルスの中で光る飾りや和声転換の驚きにイタリアの遊び心が感じられる作品です。
その色彩を演奏の中でお届けできればと思います。

自由曲は、10月のジョイントコンサートで取り上げた三善晃作曲「混声合唱とピアノのための やわらかいいのち三章」より「2」「3」を演奏いたします。
「思春期心身症とよばれる少年少女たちに」と詩の副題にあるこの組曲は「少年少女の心の在り様」を、無調の中でF音とFis音が揺れ動く様子に投影しています。
「2」は、打楽器的なピアノと対比的なテキストを語る合唱によって、苦しみ喘ぐ様子を描きます。
「3」は拍節間を越えて語りかけ、時には木魚によって、一つのいのちとして「愛される」ことが宿命づいていることを説きつけます。
緊張感に満ちた無調が続きますが、フッとホールに残る長和音に作曲者の優しい面影すら感じる、そんな演奏を目指したいと思います。

コンビニでは2018年以来ブレンド力を課題としていますが、このパンデミックを通じて各自の内発的な音楽の先に「乳化」したサウンドを実現しようと思い至り、今回の選曲といたしました。
私たちが3曲に感じた楽しさ、情熱、愛を、岡山の舞台から皆様と共有できることをとても楽しみにしております。

余談ですが、都大会では中高部門でのシード演奏のため自由曲を変更しておりました。
その曲をなんと大学ユースの部で都留文さんが演奏なさるとか!
都留文で以前歌っていた筆者も関東大会の演奏を拝聴しましたが、聴く者の心を潤す「祈りの名演」が岡山で生まれると予感させられました。

 

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「三善晃の世界」単独ステージ

 


コンビニ店員さん、ありがとうございました。

>都留文さんが演奏なさるとか!

そうなんですよ、私は東京都大会の演奏曲で都留文さんと同じ曲を演奏されると勘違いして「贅沢な聴き比べ!」と思ってしまいました(笑)。
ちなみに都留文さんのご紹介はのリンクからどうぞ。

 

VOCE ARMONICA指揮者:黒川先生による「松村努先生が男前すぎる件」といい、こうして合唱団の間で繋がりが出来るのは良いですね。

 


店員さんが触れられている「ジョイントコンサート」、大阪での「三善晃の世界」。
コンビニさんはじめ、混声合唱部門に出場のCANTUS ANIMAEさん、クール シェンヌさん、MODOKIさんと実力4団体合同の演奏会だったんですが、その中でもコンビニさんステージの完成度の高さは凄かったです。
「やわらかいいのち三章」は三善先生晩年の作品で、なかなか聴く機会が少ない作品。
それでもコンビニさんの明晰な発語や高い発声技術、松村先生の的確な音楽で、とても説得力がある演奏を聴かせていただきました。

書かれるように無調、時には木魚も使い、繊細な思春期の少年少女の心を表現したこの作品。
作品世界へ入り込み、三善先生の目指すものを表現されるのはかなり難しいはず。

>「ブレンド力」
>各自の内発的な音楽の先に「乳化」したサウンド

コンビニさんならではの高い目標。
大阪の演奏からさらに磨かれた音楽を、岡山で披露していただけると信じています!





混声合唱部門、そして岡山での全国大会、最後の団体は北海道からこちらの団体です。



10.北海道・北海道支部代表

Baum

(31名・7大会連続出場・第64回大会以来9回目の出場)



Baumさんは2009年に札幌で創立。
指揮は同声部門で出場の、HBC少年少女合唱団シニアクラスも指揮される大木秀一先生。
団名のBaumはドイツ語で「木」の意味。
大「木」先生を慕い集まって作られたことによる団名なのでしょう。
(HPの名称が「Big Tree Chorus Club」!)

一昨年の感想では


課題曲G2は柔らかい、優しい感じで。
特に男声がデリケートな歌唱でした。

自由曲:Kim André Arnesen作曲
「Infinity(無限に…)」
キレイだし、均質だし、
サウンドも良くて安定感があったね。

バランスも良く、
頂点までの盛り上がりが良かった。
ソプラノのソリストさんも
曲に合った声質と歌唱でした。

……という感想がありました。


Baumさんの今回の演奏曲は
課題曲G2 O salutaris  Hostia(Gioachino  Rossini 曲)
自由曲「Even when He is silent」(Kim Andre Arnesen)

パナムジカHPによると

ノルウェーの若手作曲家アーネセンによる無伴奏混声合唱曲。
第二次世界大戦の際に強制収容所の壁に書かれていた言葉をテキストに採った作品。
「たとえ太陽が輝いていなくとも、わたしは太陽の存在を信じる」から始まるこの文章に、作曲者は「これは<Credo>である」と感じたと語ります。絶望の只中にあってなお、希望が存在することを信じ、あきらめない。
決して太陽(=希望)を失わない人間の強さを美しい旋律と豊かなハーモニーで歌う感動的な作品です。


この作品は一昨年の全国大会で、女声版を大木先生指揮でHBC少年少女合唱団シニアクラスが演奏されています。
HBCさんは今年、同じ作曲家のKim Andre Arnesen作品を演奏。
Baumさんも一昨年、Kim André Arnesen作品を演奏されていました。
とても気に入られている作曲家なんですね。



お聴きのように、優しい旋律と美しいハーモニーに魅了されます。
絶望の只中でも希望を訴えるテキスト。

この岡山での全国大会を優美に締めくくってくれることでしょう。






<ありがとうございました>

コンビニさんの2008年岡山全国大会が初出場、いや初出店というお話。
何か感想書いてたかな……と当ブログをさかのぼってみたら。
え。2008年がこの「全国大会へ出場される団体をご紹介」という企画の初回でした。

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2008年岡山シンフォニーホールでの表彰式。

 



すっかり忘れていましたが、そうか、ぜんぱくさんが以前から行っていたご紹介企画。
ぜんぱくさんがお忙しいので、出場団体半分の一般ABを手伝いましょうか?と申し出たのが始まり。

あれからぜんぱくさんは紹介企画自体もされなくなり、なぜか私は大学ユースから一般まで全団体をご紹介するようになり・・・。
どうしてこうなった?!
自分から申し出たとは言え、今度ぜんぱくさんに会ったら文句、いやお礼を言わないといけないですね。


昨年のコロナ禍による全国大会中止は、この状況では仕方が無いという気持ちもあり、諦めがありました。
しかし、今年になって2年ぶりにブログ記事を書いていると、その空白が痛みとなって襲ってくるんですね。
まず「○年連続出場」という言葉が使えなくなった。
「○大会連続出場」という言葉をひねり出し。
人数も半減、いやそれ以上減らしている団体も多かった。
そして送っていただけるだけありがたいんですが、合唱団のお写真も「最近撮影する機会も無いので2019年のを……」という団体も多かった。
さらに切ないのは「今年の写真ですが、顔が判明すると難しい立場になる団員がいるもので」、と。
だから顔が写っていない写真を送ります・・・合唱団はいつから秘密結社になったんでしょう?
でも送ってくださった人も、顔が判明したくない人の気持ちも双方分かってしまうだけに、切ない。

この岡山大会が、観客を前にする久しぶりの演奏という団体も多いようですし。
参加できるだけまだ恵まれていて、出場を辞退された団体も少なくありません。
メッセージを読みながら、聴いているだけの自分に、歯がゆさと何も出来ない無力の痛みを感じる日々。

しかし、痛みと同時に希望を与えてくれるのも、苦しんでいるはずの指揮者、団員さんからのメッセージでした。




一堂に会して思い切り歌えない期間が長かった分、一人一人の合唱への思いは強まりました。
今私達にできる最善を尽くし、参加できない仲間の思いも力にして、目の前の音楽に真摯に対峙したいと思っています。


(Vocal Enesemble《EST》団員Nodaさん)



「目指すものの転換」に目を開かされたのも事実です。
が、それと同時に「目指すべき普遍的なもの」を再認識したのも確かです。
私たちPangeはコンクールという機会を通して、その「目指すべき普遍的なもの」に耳と心を使い、歌うこと、そして全国の仲間とつながりあうこと、そんな瞬間を大事にしていきたい。


(混声合唱団Pange指揮者:坂本雅代先生)



私(新見)はこの曲の

  みえないことで みえてくる世界
  夢みるために
  みえないでいる世界

というフレーズが好きです。
昨年からみえないものに怯える日々の中で、目にみえない音楽を通して私たちは繋がっている、ということをこの作品を通して感じるのです。


(マトリカリアコール指揮者:新見準平先生)




monossoの特徴も、コロナ禍においては悩みの種となりました。 
練習中止や参加制限など、考えたくないことを考え、正解がない問題に向き合い続けなければいけない。
「やめてしまえば話が早いけど、”どうやったらやめないでいられるか” を一番大事に考えよう!」と、なんとか進んできた日々でした。


(monosso団員さん)




「とてつもない秋」の中で歌われるものは、コロナ禍ではどれも「不要不急」とされてしまうものばかりかもしれません。
しかし「不要不急」なものに時間を費やし、号泣するほど心揺さぶられる、それが一番自分にとって大切なこと、やりたいことであると、このコロナ禍の2年間で再確認しました。
素晴らしい演奏をするための努力もまた、私たちにとっては「不要不急」ではないと確信しています。


(VOCE ARMONICA指揮者:黒川和伸先生)




神への祈りに留まらず、今のコロナ禍に対する願いや、コロナ前の日々を取り戻そうとする我々合唱人の強い決意も込めて、歌いたいと思います。


(I.C.Chorale指揮者:村上信介先生)




魂の込められた楽譜に真摯に向き合った時間でした。
自分の歌の力量に根気強く向き合った時間でした。
この世の中の状況は私たちに大切なことを与えてくれました。
あきらめること、その中に生まれてくる希望の何と愛おしいことでしょう。


(合唱団こぶ指揮者:大山敬子先生)




メンバーの退団等で決して多くない団員数がさらに減少し、コンクールはどうかな…と思い、団員に尋ねました。
「無理しなくていいんだよ」の問いかけに「人数は減ったけど一生懸命練習して全国大会に行きたいです」と涙を流しながらの訴えに、もうここからどうしたらよいものか、本当に悩みました。(中略)
今年のウィスティリアは、人数のこと、支部大会に私が不在だったこと、大切なお母さんが他界したメンバーもいます。
これでもか、という怒涛のようなコロナ禍を味わいました。
しかし、それでも元気に歌えること、岡山県で歌えること、ずっと見守ってくれている人たちがいること、応援し続けてもらえること、感謝の気持ちを忘れずに頑張ります。
少人数での全国大会の舞台ですが一生懸命歌います。


(ウィスティリア アンサンブル指揮者:藤岡直美先生)






まだ予断を許さない中、世界が元通りになったとは決して言えません。
今もなお、望むような活動が出来ない人を思うと胸が痛みます。
ただ、このブログ企画を通じて、合唱するみなさんの「いま歌う意味」を新しく知ることができたのは、とても良かったと思うのです。


今回も本当に多くの方にお世話になりました。
すべての合唱団のみなさまにお礼を申し上げるのはもちろんですが、メッセージをご寄稿して下さった方、団員さんをご紹介して下さった方、お写真を送って下さった方・・・。
もう一度この場で、お名前だけを記して、この連載を終わりにしたいと思います。


縄裕次郎先生、島方麻美先生、大野さん、浅岡さん、花山さん、大内さん、横尾さん、松本さん、渡邊さん、平見さん、天童さん、難波夕鼓先生、阿久津さん、坂内さん、田崎さん、坂本雅代先生、ふじもりさん、稲垣潤一先生、La Merツイッター担当者さん、藤岡直美先生、新見準平先生、池田さん、仲宗根さん、須田さん、松川大先生、杉田さん、合唱団Pálinkaツイッター担当者さん、千葉敏行先生、山本啓之さん、しょうこさん、五百川さん、本田さん、せのをさん、鳥谷越浩子先生、松本さん、Nodaさん、村上信介先生、大山敬子先生、徳重さん、黒川和伸先生、吉村さん、村田さん、瀬成田さん、さやぽんさん、Mariさん、江口さん、ノブナリさん、いたっちさん、緑フラウエンコールツイッター担当者さん、尾崎さん、chesoksoさん、doyoshinkyoさん、SKI taka-fummyさん、ばっちさん、全日本合唱連盟中の人さん、合唱倉庫さん。

お名前が漏れた方がいらっしゃいましたら大変申し訳ありません。

他にもこのブログにスターを付けて下さった方、読者になって下さった方、ツイッターで「いいね」やリツイートをして下さったみなさま、Facebookで「いいね!」やシェアして下さったみなさま、感想を寄せて下さったみなさま、そして、読んで下さったみなさまに心から感謝を申し上げます。


最後に大学ユース部門の最初、この岡山大会の一番はじめに出場される酢だこ指揮者:縄裕次郎先生のメッセージを引用し、自分の願いと重ね、終わりたいと思います。




星野源がYouTubeで「うちで踊ろう」を歌っていた昨年春、私たちは本当に「うたをうたうのはわすれても」だった。
集って歌えることに感謝しながら、歌う仲間と聴いてくれる皆さんとあの頃の思いを共有しながら、全国大会の会場に第一声を響かせる。
私たちは「うたをうたうのはわすれない」と。




岡山でお会いしましょう。
ありがとうございました!


(観客賞スポットライト2021 おわり)