2007年 聴いた演奏を振り返る その3

 宝塚国際室内合唱コンクール感想が長くなったので移動しました。




 第23回宝塚国際室内合唱コンクール
 2007年 7月28日 10:00〜
 宝塚ベガ・ホール


 (以下、掲示板からの転載)


 今までは「入賞団体による演奏会」しか聴いていなかったのだが
今年は前日のコンクールから聴いてみることにしました。


 いろいろ理由はあるのだけど、
「シアターピース部門」新設立に興味津々だったり、
出身地の北海道・札幌から「QuarterNotes」が
わざわざ参加するというので
そりゃコンクールから聴いてやらなきゃな〜…と思ったのもある。


 結論から言うと


 「コンクールから聴いて良かった! スゴク良かった!!」


 ・・・である。
 ひとつは水準が予想していた以上に高く、
各部門、それがたとえ銅賞でも充分褒められるべき水準だったと思う。
 もちろん入賞していなくても魅力的な団体はあった。
 (それはこれから書いていきます)


 ふたつ目はコンクールと入賞団体演奏会で
選曲が違う団体が多かったこと。
 コンクールだけで聴けてラッキー!な団体が
いくつもあった。
 (特にインドネシアから来た
  「ボイス・オブ・サティヤ・ワチャナ・キリスト教大学」は
  もちろん入賞団体演奏会でも良かったけど
  ありゃやっぱりコンクールを『観ないと』かなーり損だったと思うのだ)


 みっつ目はロマン派、シアターピース、ルネサンスフォークロア、という
曲ごとの形式別に部門が分かれていることで
聴く自分にとって「ロマン派とは?」「ルネサンスとは?」
…と考える良いきっかけになったこと。
 ぶっちゃけて言うと
 「オレってなーんも知らないし、分かってないんだな!」
 ということがよーく分かった、そんな無知の知、ということかな。


 それでは「入賞団体演奏会」で“演奏しなかった”団体から
コンクール各部門、気になった団体の感想を簡単に。


 <ロマン派部門> 全9団体

 この部門の水準が全部門の中で一番高かったように思います。


 TWILIGHT BELLS(大阪・8人) 銅賞
 30代後半?のメンバーが豊かな声で
SchumannとBrahmsを。
 豊かな声だが強烈に主張!ではなく、
全体でひとつの流れを作り、
各パートがその流れに上手く乗っていくのが心地良かった。


 浜田少年少女合唱団S&S(島根・20人) 賞外
 BerliozとVerdiの曲を演奏。
 10代から20代の若い合唱団。
 ダイナミクスの幅、発声が上質でした。


 菊華アンサンブル(東京・15人) 賞外
 Brahmsを3曲。
 まっすぐな方向で美しい発声。
 この鳴り、豊かな倍音が感じられる響きは素晴らしい。


 浜田少年少女合唱団S&S、菊華アンサンブルは
少年少女合唱団、高校合唱部のOBOGなのだけど
やはりそういった成り立ちの合唱団では
いかに発声や響きが美しくても、
表現という面で「ロマン派」という部門は難しいかな、という印象。


 全体講評で審査員の長谷川久恵先生が
 「ロマン派なのにルネサンスの発声、
  あるいはその逆をやっている団体があった」
 …そんな意のことを仰っていましたが
 「それっぽく聴こえる」というのは大事なことだよなあ、と。


 そういう意味で上位団体の演奏は
声、表現とともに、まず「深さ」というものが感じられ、
表現の多彩さ、細やかさが練られていました。


 もちろん、自分たちに足りないものを補おうとして
このコンクールに出場することは大変有意義だと思いますし、
そういう意味で多くの少年少女、中学高校のOBOG合唱団が
参加するようになると面白いですね。


 (以上、掲示板からの転載でした)


 さて、ここからはメモを見ながら印象に残った団体の感想を簡単に。


 ボイス・オブ・サティヤ・ワチャナ・キリスト教大学(混声20人)
 いや、インドネシアから来たこの団体は凄かったな。
 シアターピース部門で銀賞、
フォークロア部門で金賞だったのだけど、
シアターピースで銀賞の評価だったのが、
審査員側の「シアターピース」というものの捉え方を見せてくれて
興味深かったような。


 仮面舞踏会では仮面を含め、タキシード、イブニングドレスを。
 バリ民謡では男性は上半身ハダカ、
女性もケチャダンスにふさわしい衣装で。
 ・・・衣装だけで荷物がヒドイことになってたろうなあ。

(↑ 打ち上げでの演奏写真)


 ステージ上にスクリーンのような布を張って着替えを隠したり、
ダンス、動きといった見せ方の素晴らしさ。
 そしてポピュラーミュージックでも、
実に良く練られた発声で完成度が高かった。
 このコンクールに出場した団体で一番
 「金を払っても良い!」
 ・・・というエンターテイメント性があった団体でした。


 演奏会では、衣装も演出もおとなしめになってしまったので
前日のコンクールを観て、聴けた観客は幸運でしたね。



 そして、シアターピース部門で金賞の
《EST》シンガーズ(混声20人)
 ロマン派部門でも拍節やそのリズムの細やかな表情。
 音楽の移り変わりや、表現の広がりなど良かったけど、
シアターピース部門での
「三重五章」より序章 a.鈴鹿馬子唄 b.櫛田川舟歌柴田南雄 作曲)
          第二章 b.伊勢の手まわし
・・・はとにかく良かった。


 衣装は伊勢参り?の旅装束で。
 客席の通路のみならず、
パイプオルガン横のバルコニーなどを利用した
立体的な空間の使い方。
 演劇的な語り、表情。
 さらにソリストの歌唱、などなど。


 こういう空間的な演出と言葉と音楽の水準が総合的に高いことを
審査員は「シアターピース」として評価したのかな、などと想像しました。
 「ボイス・オブ・サティヤ〜」は確かに優れていたけど
ステージ上だけの演奏だったし、
そして芸術ではなく、“芸能”の方へ針が振れていたのかな、と。



 ESTはぶっちゃけると、数年前までは
その、どこかゴツゴツした表現の粗さ、というものが
どうも私には受け付けなかったのだけど・・・。


 このコンクール、入賞団体演奏会では
そんなことを全く感じさせないくらい素晴らしかったですね。
 いや、そういう「ゴツゴツ」した部分を無くした、のではなく
長所へ上手いこと変換した、と言うような・・・。
 例えると少女時代は、
目や唇がやたら大きくてアンバランスな印象の女の子が
久しぶりに会ったら、超ゴージャスな美女になっていた、
というような感じ。わかる?


 EST、コンクール後の打ち上げでの演奏も素晴らしかった。
 歌唱もさることながら、
観客を演奏へ引き込む雰囲気。
 日本人離れした魅力がありました。


 ESTみたいな海外へ積極的に出て
変化した団体を目の当たりにすると、
私が「良い」と思ったり、「ここはこうすれば…」という視点って
結局「日本人的合唱の評価」からでしか無いのかなあ、などと
反省する良い機会ともなりました。
 そういう視点って「角を矯めて牛を殺す」と言うか、
少なくとも「ここはこう伸ばせば」みたいなのが無い。
 結果、スケールが小さい、
狭いところで行き詰っている音楽を求めるような。


 そういう意味では佐賀の某団体にも
積極的に海外へ行って欲しいものです。


 ・・・いや、そんなこと言うオマエがまず行けって?
 パスポート、とっくの昔に期限切れちゃったしなあ・・・。



 クール・シェンヌも、ロマン派部門(金賞)で
本当の意味で和音の鳴りが良かったし、
表情の深さも相変わらず素晴らしかった。
 Brahmsの「Zwei Motetten Op.74」から1曲目を演奏したのだけど、
これは全国大会のブラームスと(違う曲だったけど)
勝るとも劣らず、でした。
 個人的にはルネサンス(金賞)より
ロマン派部門の演奏が感動的だったな。



 他に印象的だったのは
ルネサンス部門で銀賞のアンサンブル・ベル(東京・混声11人)。

結成11年、この時代の世俗曲を宮廷音楽として捉え、
その艶やかさ、華やかさをコミカルに表現したいと研究してまいりました

 という言葉の通り、LassoのMatona,mia caraや
PASSEREAUのIl est bel et bonを表情豊かに、
小粋な演出も交えて演奏していたのが好感。


 女性は色違いのドレス、男性も個性的な衣装、とオシャレ。


 自由な「アンサンブル・グループ」という印象だけど
端に指揮者がいるので、音楽の要所がキッチリしていたのも
面白かったです。



 同じくルネサンス部門銀賞の
Chamber Choir Clinics仙台(宮城・混声20人)
 仙台の複数の合唱団の団員が
2006年12月に集まって結成したばかりの団で
Monteverdiの「Sestina」から演奏したのだけど、良かったな!


 おそらく“歌える人”が集まってはいるとは思うのだけど、
早川幹雄さんという指揮者のセンスが素晴らしかった。
 熱っぽさと上品さを同居させ、表情付けも上手い。
 音に関する意識の高さは、同じく指揮をする「合唱団Epice」と
共通するものはあったけど、比較的少人数のこの団体では
ふさわしい音楽の違いというものを振り分けていたようで、
そちらにも感心。


 これからが楽しみな指揮者、合唱団でした。
 もちろん「Epice」も楽しみです!



 他にはフォークロア部門で
全体の流れとスピード感が良かったQuarterNotes
 シンプルだけど歌わせ方が実に自然で美しかった、
伊東恵司さん指揮のChor Sherryなどが印象に残りました。



 あと、フォークロア部門では日本人の団体は
8団体中4団体が松下耕先生の楽曲を演奏しており、
(「三原ヤッサ節」は3団体が演奏)
コンクールにふさわしい難易度を持って、
演奏効果が充分ある日本民謡、というのは
確かに松下先生の楽曲がすぐ思いつくけど・・・しかし・・・、と
なかなか複雑な思いにもなりました。
 (間宮先生の楽曲は演奏されていなかったけど、
  やはりコンクール的に究めるのが難しいのかなあ?)



 まとめとして、海外団体の個性を楽しんだり、
日本の知られざる団体を発見したり、
音楽の部門別に分かれていることで、
その部門の形式を学んだり、考えさせられたり。


 ・・・宝塚国際室内合唱コンクールは
とても良いコンクールだと思います。
 今年も時間とサイフの余裕が許せば、ぜひ行きたい!