聴かずに土下座した日  日立コール・システム・プラザさん

 

 


一緒にブレーンさんとコラボ記事を書かれているぜんぱくさんのブログ「指揮者の独り言」。


「珠玉のハーモニーに寄せて」を書くにあたって の初回も良かったんですが、「その2」 もメチャクチャ面白く興味深いですよ!
「合唱人」という言葉が生まれた背景。
インターネットの影響や「史上かつてない2次会」の開催など、昭和から平成への時代と合唱の変遷をわかりやすく記されています。



さて、「珠玉のハーモニー」に収録された演奏について書いていくこのコラボ企画。
初回はVol.9に収録されている2012年11月、富山市芸術文化ホール オーバード・ホールで行われた第65回大会。
部門改正のため、職場部門がこの年で最後となる全国大会のお話。

 

 

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「日立コール・システム・プラザさん」です。

初回から大変申し訳ないのですが、こちらの演奏、実は私、会場で聴いていないんですよね・・・。
うかつなことに寝坊してしまい職場部門の開始に間に合わず、なんと9団体目のパナソニック合唱団さんから聴き始めまして。

さらに知人から悪魔の言葉が。
「昼休憩55分しかないぞ。文吾が食べたいって言ってた富山ブラックラーメンの店には間に合わないな」
「ん~~~!」 悩む。葛藤。
聴いているパナソニックさんの後、職場部門は2団体。
どうしよう…ラーメン、合唱、ラーメン、合唱・・・私は知人へ決然と言いました「ラーメン!!」


職場部門を途中で抜けて食べた富山ブラックラーメンは大変美味しく、満足して次の一般部門Bグループから聴き始めたのでした。


全部門が終了したその日の打ち上げ「史上かつてない2次会」にて。
「いや~職場部門1団体しか聴けなかったけどブラックラーメン美味しかったよ~~」
呑気にそう話したとき、職場部門の全団体を聴いた一回り以上年下の知人女性2人の(ひとりは高校の後輩)、顔色がサッと変わりました。

「文吾さん、まずそこ座りなさい」

へ。なんで??


「「いいから!」」

ふたりのあまりの迫力に命じられるままその場に座り。
そして彼女たちの言うことには。
私の聴いたパナソニック合唱団さんの後は伊予銀行合唱団さん。
自由曲、伴剛一先生の「いのちの木を植える」。
最後に演奏した「木を植える」が自身の行いと未来への希望を語るテキストで、とても良い演奏だったと。
あまりに真剣な口調で、私、崩していた足を正座にする。

正座させたまま彼女たちは続けます。
職場部門最後の団体、日立コール・システム・プラザさん。
81名の新日鐵住金混声合唱団さんや76名のパナソニック合唱団さんが出場する中で、混声19名という職場部門最少人数。
自由曲が信長先生の「雲は雲のままに流れ」から、最後に演奏したのが木島始詩の「それじゃ」。
これが本当に、本当に!素晴らしい演奏だったと。
ふたりの語る言葉に涙が混じるんです。


キャンドル吹きけそうとするたびに 
 あさっての口笛がきこえるなら
 また会おう



「この全日本合唱コンクール全国大会、改正前、職場部門最後の年で」
「最後の出番、そして最後の曲が『それじゃ』」
「この曲を選んだ日立さんの想い……」
「あの演奏を聴かないなんて信じられない!」
「あなたそれでも合唱ブロガーなんですか?!」

真剣に、涙ながらに怒られました。


自身の行いを深く反省した私は、知人女性ふたりへ、正座のまま床へ手に着き。
深く、深く頭を下げ、土下座したのでした。
あの時の日立さんと職場部門出場団体のみなさんへ。
「もうしわけありませんでした!!!」

奇跡のような出演順、そして選曲。
時が戻るのだったら昼飯抜いても聴きたかったなあ。

 

 

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そして8年が経ち「珠玉のハーモニー」企画でこの日立さんの演奏が候補に上がっており、演奏を聴き直しました。

面白いことに2曲目の「海」まで、いわゆるコンクール的な緊張が感じられるのですが、最後の「それじゃ」で、ふっと緩むのです。
コンクールなんて忘れたように、いまこの場を楽しもう、ただ音楽を伝えようと。
後半、「また会おう」と繰り返し、たたみかけテンポアップし「それじゃ また」と明るく歌い終わるのが、逆に悲しみを隠すよう。
歌う場と聴く場そのものが失われた、コロナ禍の現在に聴くからでしょうか。
響きました、とても。
遠くから手を振ったんだ笑ったんだ涙に色が無くてよかった」 なんて短歌を思いだし、聴き終わっても余韻にしばらくじっとしていました。



時代が生み出す演奏なんて言葉は軽すぎるかもしれませんが、無くなった職場部門と重ね。
「また会おう」と時を越えて伝わる、普遍的な強さと希望を持った日立さんの「それじゃ」。
当時、聴かなかったことを涙ながらに責めた知人女性の想いに代わるわけはありませんが、私もぜひ多くの人に聴いて欲しいと願うのです。

 

 


やっと泣きやんでほっとするきみに
鳥が目くばせしかえすなら
また会おう


「それじゃ」 木島始








日立コール・システム・プラザさんの演奏は「珠玉のハーモニー」Vol.9に収録されています。 

※追記
この記事を読まれた高校の後輩さんがこんな反応をしてくれました。

 


パナソニック→伊予銀行→日立CSPを通して聴いてこその幕引きでした。
歌い切って晴れやかな日立のみなさん。
「ありがとう!」と日立さんに手を振る観客。
あたたかくて切なくて名残惜しい、職場部門の終わりでした…。

 

 


次回は「●九州男児と呼ばないで?! クェーサーさん」 9月24日更新予定です。

 

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