観客賞スポットライト 大学ユース部門 その1





コロナ禍で世界は大きく変わり、長く続いていたこの全日本合唱コンクール全国大会も、昨年は中止になってしまいました。
かつて経験したことが無いほどの困難の中、合唱の灯を消さないようにと懸命に動いてくださった多くの方々のおかげで、この岡山での全国大会も開催できます。
本当にありがとうございます。



今年で5回目となる「観客賞スポットライト」というこの企画。


観客賞とは…?

9年前から当ブログで始めた観客賞。
各部門の、全団体を聴かれた方の投票で決定する賞です。

この観客賞の意義を説明しますと。
音楽のプロフェッショナルたる審査員による順位、賞の決定は、それぞれ真剣に誠実に演奏へ向かわれた結果であり、尊重すべきだと思います。

しかし、
「傷はあったが凄く良かった!」
「コンクールに向いてない選曲はわかるけど涙があふれた!」
…などという声を多く聞いていた自分は、
「観客による投票を行ったら 演奏への新しい価値観が生まれるのではないか?」と考えました。

さらに「この団体が銅賞だったから私は投票する!」…のような判官贔屓を無くすため、投票は審査結果前に締め切っています。

この観客賞に関連付ける形で、団体にスポットライトを当て、ご紹介するのがこの「観客賞スポットライト」という企画です。



それでは始めましょう!
今年の全国大会は私(文吾)の地元・岡山!!
岡山シンフォニーホールにて11月20日、21日に行われます。
ちなみに岡山シンフォニーホールでの全国大会は、近年では中学・高校の部が2019年。
大学職場一般の部は13年前の2008年に開催されました。

 

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岡山シンフォニーホール ©岡山県観光連盟





最初の部は大学ユース部門。
この部門は参加が一番厳しい部門だったかもしれません。
多くの大学が構内での練習禁止やサークルの活動停止を告げ。
一昨年に金賞、そして観客賞1位の北海道大学合唱団もコンクール参加を辞退。
(北大のみなさん!応援してますよ!!)



今年も合唱倉庫さんから全国大会へ何回出場されたかというデータをお借りしております。

毎回ありがとうございます。

 



1日目、11月20日土曜日。



練習時間も満足に取れない中、それでも各支部から9団体の出場です。
10時開場、10時15分の最初の団体から、たくさんの拍手で出迎えたいですね。
それでは2021年岡山全国大会。
最初の団体は初出場のこの団体です!



1.広島県・中国支部代表


酢だこ
https://twitter.com/Chor_Sudako
(混声23名・初出

 

 

初出場おめでとうございます!

さて、なんとも変わった団名のこのユース団体。

 

 

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送られてきた写真……



団名の由来は?

広島を中心に、旺盛に活動されている酢だこ指揮者:縄 裕次郎先生にメッセージを送っていただきました。

 


2020年3月、ひかりカレッジクワイアの最後のコンサートが行われた。
そのとき、新しいユース団体の設立を夢想するひとりの大学生が現れた。
中川太智、通称タコスである。
彼のあだ名をリスペクトして、団体名は「酢だこ」と名付けられた。
広島で毎年行われていたコーラス・どーなっつなどで作られてきた大学生のうねりが、この酢だこの船出に大きな追い風を送る、はずだった。
しかし、3月には既に不穏な空気を与えていた新型コロナウイルス感染症により、大学は閉鎖し、私たちは完全に分断されてしまった。
当初の目標としていた昨年度のコンクールは中止になった。
練習さえもできない。
部屋でパソコンと向き合うだけの日々が続き、いたずらに時だけが過ぎていった。
ここで心折れても仕方がない、と私(縄)は思っていた。
しかし、タコスは違った。
多くの貴重な時間をコロナにより失いながらも、一度しかない大学生活を価値あるものにすべく、再び立ち上がったのである。

 

おお!中心人物の「タコス」さん→「すだこ」なんですね!

今こうして実際の辛い経験を読むと心が痛みます。
それでも再起したタコスさん中心の酢だこのみなさん。

酢だこさんの今回の演奏曲は
課題曲G3:「うたをうたうのはわすれても」(岸田衿子 詩、津田 元 作曲)
自由曲:混声合唱とピアノのための「初心のうた」より「1.初心のうた」「5.泉のうた」。

 


今回、コンクールで選んだ自由曲は木島始詩、信長貴富作曲の『初心のうた』。
詩人の木島が見た戦後の焼け野原と、コロナ禍のこの状況が重なってくる。
このコロナ禍で不条理を一番感じているのは、大学生かもしれない。
木島のひとつひとつの言葉は、今うたう私たちの心の叫びだ。
『泉のうた』でその叫びは願いへと変わる。
ひろい 道が あるといいな」と。

コロナ禍は地方に行けば行くほど、合唱ができない環境を作り出した。
課題曲の「うたをうたうのはわすれても」は、一人称の「わたし」が主人公だ。
主人公の孤独もまた、コロナ禍で仲間と会うことさえ叶わなかったあの頃を思い出させる。
星野源がYouTubeで「うちで踊ろう」を歌っていた昨年春、私たちは本当に「うたをうたうのはわすれても」だった。
集って歌えることに感謝しながら、歌う仲間と聴いてくれる皆さんとあの頃の思いを共有しながら、全国大会の会場に第一声を響かせる。
私たちは「うたをうたうのはわすれない」と。

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縄先生、ありがとうございました。
課題曲を主体的に取り上げ、自由曲では詩人:木島始の状況と現在を重ね合わせ、願いとして昇華される。
コンクールのステージですが、その枠を越えた縄先生、酢だこのみなさんの思いに貫かれた選曲。

「初心のうた」は5曲からなる曲集です。
始まりとなる「初心のうた」の暗い夜を思わせるピアノ前奏の旋律が、終曲の「泉のうた」では希望に満ちた、弾むような明るさに変化します。
苦しい時間を耐えた酢だこのみなさんなら、書かれるように叫びを強い願いに変え、聴く者の心に響く演奏をしてもらえることでしょう。

私たちの願いが酢だこさんの願いと重なり、シンフォニーホールへ大きく広がる演奏となりますように。





ユース団体が続きます。
名門の高校コーラス部母体の団体が、こちらも初出場!

 

 



2.埼玉県・関東支部代表

Ensemble SAKAE
(混声49名・初出場


初出場おめでとうございます!

母体が名門・埼玉栄高等学校コーラス部さん。
コーラス部顧問で、Ensemble SAKAE指揮者の島方麻美先生からメッセージをいただきました。

 


こんにちは、このたび大学ユースの部に初出場させていただくことになりました。
Ensemble SAKAEはその名の通り埼玉栄高等学校コーラス部関係者による合唱団です。

2019年の声楽アンサンブルコンテスト全国大会公募審査通過を機に結成しました。
結成当初は埼玉栄高等学校コーラス部のコーチや指導者6人でアンサンブルコンテストに出場し、昨年度よりコーラス部、吹奏楽部、マーチングバンド部の卒業生と、高校を卒業して就職した者、大学を卒業して社会人として働いている者など、埼玉栄高等学校の関係者が加わり今回の出場となりました。
県大会も関東大会もまさか金賞を受賞させて頂けるとは全く思っていなかったため、思いがけない喜びの中準備を進めて参りました。

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関東大会前、山梨のダンスホールでの早朝練習。

 


ほう!コーラス部の卒業生だけではなく、さまざまな部や関係者で構成されている団体なんですね。

Ensemble SAKAEさんの課題曲はG3:「うたをうたうのはわすれても」(岸田衿子 詩、津田 元 作曲)。
自由曲はフィンランドの作曲家Jukka Linkolaによる「Mieliteko」。
スピード感、交差するリズムがスリリングな作品。
そしてアメリカの若い作曲家Jacob Narverud「Missa de Cinque Terre」より「V. Monterosso al Mare (Agnus Dei)」は神秘的な曲想から、叙情的に聴く者を惹き付け、そして後半から……な作品です。
これらの楽曲はどのように選ばれたのでしょう?

 


課題曲G3は日本語の美しさを表現できるように、絵画や風景を見て、外の空気を身体で感じながら練習をした日もありました。
新しい自分に会える喜び、ひととして生きる喜びを歌い上げられるよう、日本語の律動と音楽の持つ揺れが合致する演奏を目指したいです。

自由曲の「Mieliteko」は3年前にフィンランド合唱団との交流で仲良しになり、今でもメールのやりとりをしている団員の提案で選曲しました。
カレワラ叙事詩を題材として作られた日本の古事記のような内容の曲です。
東京大学大学院に留学していたAnniさん(コーチの友人)からその発音と内容を教えていただきました。
フィンランドの香りが立ちこめるような和音使いや、5拍子のリズムの面白さなどを表現したいです。
打楽器専攻の卒業生がリズム感を身体に取り込む練習方法をレクチャーしてくれて、皆で楽しく練習しました。

「Missa de Cinque Terre」より「V. Monterosso al Mare (Agnus Dei)」はイタリアの美しい街の風景や様子を感じて作られた曲で、印象的な冒頭から、曲の持つ魅力に引き込まれ、平和への祈りを高らかに歌いたいと思い選曲しました。
曲終盤の高揚感がたまらなく団員全員が大好きな曲です。

岡山のこの素晴らしいホールで、音楽を愛する仲間たちと共に合唱できるのは幸せの極みです。
精一杯歌いますのでお聴きください。

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県大会、ホール前にて。

 

 

島方先生、ありがとうございました。
課題曲、自由曲、共に作品の本質に迫るようなアプローチが推察され、とても期待が持てます。

10月20日にいただいたメッセージは他にも


関東大会もまさかまさかの金賞1位で全国大会代表に選出していただき、驚きと喜びとで、大学や仕事の調整を大至急連絡して、てんやわんやでした。
「県大会でデビューできれば嬉しいね」という、できたての合唱団ですが、せっかく頂いた機会ですので(マーチングバンド部を卒業し消防士として勤務している団員も、夜勤明けに岡山に駆けつけてくれるという嬉しい連絡もあり)全国大会まであと5回(全員揃うのは1回あるかな・・・)という少ない練習時間ですが、集中して練習に励みます。

 


夜勤明け!
その辛さを知っているので、その消防士団員さんとEnsemble SAKAEさんを応援してしまいます(笑)。

Ensemble SAKAEさんとして初めての全国大会、素敵なお仲間たちとの演奏が幸せな思い出になりますように。



(明日に続きます)