まだ間に合う!配信3選

 


最近聴いて良かった配信の合唱演奏会&テレビ番組をご紹介します。


まず 
1)initium ; 6th concert「平和のほんとうの顔」

 

こちらは12月11日まで!
欧州で研鑽を積んだ合唱指揮者の谷郁さん、柳嶋耕太さんの両名の下2015年に設立された室内合唱団、いにちうむさんの第6回となる自主公演。
いやこれが良かった!
20数人の団員さんは声楽家の方が主で、技術水準が高いのは言うまでも無く。
最近は東京混声でもあまり演奏されない、海外の現代曲が中心なのも嬉しい。
柳嶋さんが指揮されたH. Holliger: Psalm(ホリガー:詩編)はいわゆる歌ではなく、さまざまな息や破裂音など。
不思議にストーリーを感じさせたのは、エネルギーの増大や集中の度合いからなのだろうか。
それに続く演奏会のタイトルともなったR. Escher: Le vrai visage de la paix(エッシャー:平和のほんとうの顔)も力演。
谷さん指揮の哀しみと抒情のA. Pärt: Da pacem Domine(ペルト:主よ平和を与えたまえ)、これだけの少人数で説得力まで感じさせたA. Schoenberg: Friede auf Erden(シェーンベルク:地上の平和)。
(余談だけど終わった後、間髪入れず拍手をする客に「拍手ハラスメント」という言葉が。その客に、何か言おうとしたら3回に1回は出鼻をくじかれる呪いをかける・・・)
「ウクライナへの祈り」で知ったV. Silvestrov: Ode an die Freude(シルヴェストロフ:歓喜の歌)で締めたのも良かった。

ゲストの澤田守秀さん (スネアドラムソロ)でひとつの楽器の可能性を知り。

そしてデンマークからの客演指揮で、全日本合唱コンクール全国大会の審査員でもあったモルテン・シュルト=イェンセン氏。
もちろん作品の難易度や練習回数などの変数があるので、一概に指揮者に理由を求めることは出来ないけど。
それでもこのステージから別団体のように印象が変わった。
歌い手さんは適度にリラックスしながらも集中しているのが分かり、声の安定度も増していた。
そして前2ステージでは優れた歌唱ながら、合唱団としてはどことなく散漫な響きがあったのが、心通わせた熟達の団体のように、まとまった響きになっていたこと。
音楽もE. Hovland、J. Brahm、K. Nysted、S.D. Sandström……と年代も国もヴァラエティに富む作品、作曲家・作品独自の音楽を聴かせてくれた。
最後の2曲、H. Wolf: Letzte Bitte(ヴォルフ:最後の願い)、F. Mendelssohn: Denn er hat seinen Engeln befohlen(メンデルスゾーン:主は天使たちに命じた)も耳に慣れているという理由だけでは無く、その美しさとあたたかさに聴き惚れました。

ひとつ難を言えば、マイクのためか、会場の江戸川区総合文化センター 小ホールのためか。
音響がやや直接的だったので、もう少しホールトーンを感じたかったかな。

それでもこれほどの高水準と、興味を引く海外の現代作品。
なによりどのステージも音楽へ向かう姿勢が、真摯で熱いのが良かったですね。
現代作品だと、作品の形を明らかにするためか、過度に冷静に、客観的に演奏する印象の団体が多かったもので。
また機会があれば、ぜひ聴かせていただきたいと思います。

 

2)沖澤のどか指揮 東京混声合唱団

こちらは12月12日まで!

 

オーケストラの指揮などで著名な若手指揮者:沖澤のどかさん。
合唱の指揮を見るのは初めて。
最初のモンテヴェルディから熱く、良い音楽の流れがあって楽しい。
沖澤さんはモンテヴェルディが大好きで、芸大のアンサンブルグループでご自身も指揮と歌い手として参加していたという話に驚く。
「西風が帰り」でチェンバロが入ったのも面白かった。

やっぱり指揮者がこの曲を選んだ理由が強く伝わる、作品の香りがする演奏が好きですね。
バスの音型に惹かれたストラヴィンスキーも「いいなぁ」と聞きました。

委嘱の土田英介作品も独特の音響空間の魅力を表出し、停滞しがちなこの手の作風に適度な緊張と推進力を加えます。
なかなかアマチュアでは演奏しにくい作品かも知れないけど、聴けて良かった。

聴く機会の少ない間宮芳生「合唱のためのコンポジション第17番」も民謡部分の説得力、合唱とのバランスと整備が良い。
会場のせいか、録音方法を変えたのか、今まで聞いたことが無い音響の解像度。
同じく間宮のアンコール「おぼこ祝い歌」は名曲を名曲として聴かせる好演。
沖澤さんのルーツ、東北・青森も感じさせる素敵な演奏。

沖澤さんには緻密な音楽という評価もあるようだけど、透徹したまなざしから、塵ひとつなく磨き上げられた音楽が自ら発光するような説得力。
東京混声の配信でこれほど高揚したのは原田慶太楼さんの指揮以来です。

沖澤のどかさん、ファンになりました。
中国四国に来ないだろうか。

あ、せっかく著名な指揮者の演奏会なのだから、カメラ視点で指揮者固定をオプションで販売するとか。
あとはマルチアングルが実現しないだろうか、なんて声もありましたよ。
東混事務局さん、お願いします!

 

3)芸能人合唱バトル 演歌VS歌うま芸人がヒットソングを圧巻の合唱

12月17日(土) 23:59まで!

GYAOのリンク

Tverでも観れるそうです。

https://tver.jp/episodes/epf9fndcx4

 

期待値が低かったせいか、意外と面白く興味深かったです。

演歌チームと芸人チームという合唱団へのキャラ付け
(対立の動機も出したかったのかも知れないけど、そこは曖昧)

○指導者がゴスペル系なので合唱もゴスペル風。
個人のキャラを活かすにはこの歌い方がベター?

○混声3部?だけど、けっこう難しい和声、ソリストの多用、リズムパート!
やはり興味が移ろいやすいテレビ番組では合唱でのリズムパート、タンバリンなどでリズムを補強するのも重要なのかな。

○「ムズポイント」という音楽上、重要なポイントを前もって説明し、それをクリアしたら審査員がボタンを押すという演出上のメリハリ。


テレビという、映像が主で、短い時間で視聴者を飽きさせない演出は?という視点から「合唱」を取り扱うとこういう風になるんだなーという気付きがありました。
それにしても「ムズポイント」を全然難しそうに歌わない、合唱人のみなさんは凄いですね(笑)。

最後にこの番組の合唱指導者:木島タロー氏の言葉。

 
4:00~から演歌組のヒカルさんによる発言「合唱に良い思い出なんか無い。小さい頃から声を抑えろしか言われたこと無い」と。
その音楽教師の指導って……と悲しくなりました。
いろいろなスタイルの合唱があっても良いという意見には強く同意するんですよね。
最初に紹介した2つの合唱団でも、オーソドックスなものと思いきや、枠を出て、個人による表現への意欲が無ければ、作品として成り立たない選曲もありましたし。

テレビ番組だからと馬鹿にするのでは無く、自分も偏見を捨て、どれだけ違う形式の音楽を受け入れられるかが重要なのだと。
ヒカルさんにとっての音楽教師のようにならないためにも。

次回があったら、また観たいと思います。