マーク・ロスコという画家


 図書館で「すぐわかる 画家別 抽象絵画の見方」という本を借りて。
 なかなか良かったんで買ってしまった。

すぐわかる 画家別抽象絵画の見かた

すぐわかる 画家別抽象絵画の見かた

 
 2100円という値段に全く躊躇しなかった、とは言えないが
オールカラーで日本人3人を含む46人の抽象画家の作品を
丁寧に解説している本なので、まあいいかな、と。

 
 ピカソやセザンヌカンディンスキーモンドリアン
クレー、ミロ、レジェ、あたりは有名どころだと思うけど
ピカビアやポロックは私、かろうじて知っている、という程度。
(ちなみに倉敷・大原美術館にあるポロックの作品は・・・スゴイ!)


 ほとんど知らない画家ばっかりで勉強になるなー、と思いながら
ページをめくっていると、この画家の絵に魅入られたようになった。




 マーク・ロスコ(Mark Rothko)




 輪郭がぼやけた四角形の色面で
構成されているのが特徴の画風。
 (40代後半からのスタイル)


 この画家について調べてみると
美術館などに作品を展示する際、
同じ壁面に他の作家の作品を展示せず、
その壁に一点だけでもいいので
彼の作品だけを掛けてほしいと希望していたそうで。


 千葉・佐倉市にある川村記念美術館には
ロスコの絵だけを飾った「ロスコ・ルーム」というのがあり、
 

11月全国大会で東京へ行く日曜の午前中にでも観に行こう、と思ったら
2008年3月まで「リニューアル休館中」! チクショウ!!



 ロスコには日本にもかなり熱狂的なファンがいて
ロスコ自身が作った「ロスコ・チャペル」という
巨大な連作が展示されている教会がアメリカ・ヒューストンにあるのだけど

 



この対談から、その「ロスコ・チャペル」の様子を抜粋してみよう。

川村:すると、あなたにとって、この展覧会はすごくデカかったと思うんだけど、その、ロスコ・チャペルに行った時の体験、というのは、そういうのもなんですよね?

林:うんとね、ちょっと質問とずれてる答えかもしれませんけども、もっと、感動出来る場所だと思ってたのよ。

川村:ロスコ・チャペルというところが?

林:うん、すごい圧倒的なところなんだろうなーって思っていたら、ま、ある意味で圧倒的だって言えるんだろうけれども、なんか、「沈黙の雄弁さ」、みたいなの。ちょっと抽象的に言っちゃうと。
しゃべっていて、何かが伝わるんじゃなくて、何も言わないことによって、非常にこう、重いというか、沈黙の語る重さってあるじゃないですか、言葉ではなくて。そういう力、だったんですよ。ロスコ・チャペルは。
ふつう絵を見た時とか、美術館に行った時なんかはいろんなこと考えたりするじゃないですか。感じたり、考えたりして。でも、ロスコ・チャペルは、私にとっては、考える余裕とか、感じる余裕、とかない……。感じる余裕がないってのは違うかな。とにかく、何も、……客体化する前に飲み込まれちゃったのよ、ロスコ・チャペルというところに。


他には このブログから。

ロスコ・チャペルは予想外に小さな建物でした。
小さな建物から出てきた女の人が、友達に肩を抱かれて泣いていました。
なぜ泣いているのか、その時点では全くわかりませんでした。

その小さな建物に入ってみると、八角形のチャペルのすべての壁にロスコのほとんど黒に近い絵がかかっていました。
ロスコの絵としてはあまり魅力的に思えませんでした。

天井の明かり取りの窓の下には白い傘状のフードがあり、仄かな光の変化で空を通り過ぎる雲を感じることができました。
チャペルには光と闇とが満ちており、その境界が外からの光によって微妙に変化していきます。

不思議な冥想的な空間だなと思った瞬間、過去の自分が走馬灯のように思い出され、涙が止めどなく溢れ出てきました。

涙が溢れてきたのは、懐かしい想い出に感動したためではありません。
確かに、想い出は溢れ出てくるものの、涙が止めどなく溢れてきたのは、すべてが受け入れられているという感覚でした。
良い想い出も悪い想い出も、すべてがありのままで受け入れられている。
ロジャーズのカウンセリングで言うところの、無条件の肯定的配慮である「受容」を感じたのです。


 

 (ロスコ・チャペル内部)



 抽象絵画が、人の心をここまで揺らがせる、という例を
私は今まで知らなかったので非常に新鮮な感動があった。

 もちろん転載した対談の他の会話にもあるように
「絵」そのものだけではなく、
その「見せ方」も大きく関わっているとは思うが・・・それにしても。

 フォルム、色、そのグラデーション、
大きさなど絵によって与えられるイメージというものは、
人が思うよりもずっと多様で、深く心に届くものなのかもしれない。



 ロスコは、夕暮れどきに感じられる悲惨、恐怖、挫折といった感覚を
作品に込めたいのだと語っている。

 1970年にアトリエで自ら命を絶った画家・ロスコ。

 福岡市美術館にも彼の作品が所蔵されているそうなので、


 (福岡市美術館所蔵「無題」)



 いつか絶対観に行きたい。
 実物を前にした時、私の心にどんな揺らぎが生まれるのだろうか。



 追記)
 ロスコに非常に近い世界を音楽で描いている作曲家、ということで
某H先生からモートン・フェルドマン(Morton Feldman)を紹介していただいた。


 実時間も体感時間もスケールが大きい、との言葉どおり、
 繰り返し、ゆらぎなどから生まれる瞑想的な世界に魅かれる。


 フェルドマンにはそのものズバリ「ロスコ・チャペル」という曲があり。
 (このサイトで1曲目が聴けます)
 そういやMariさん、CD届きました?


 ロスコは多くの芸術家に影響を与えているそうで、
ますます実物が観たくなりました・・・。