観客賞スポットライト 混声合唱の部 その1

 

 

丸山千枚田の虫送り(熊野市)
提供:三重フォトギャラリー

今日から混声合唱部門の出場団体をご紹介します。
同声合唱部門が終了した12:57から14:00まで昼食休憩の後、混声合唱部門の始まりです。

 

 

全部門お勧めですが、やはり大会の華と言えばこの混声合唱部門。
全12団体、初出場の団体は無いものの、お久しぶりの団体がいくつも。
今回は3団体をご紹介します。

 

 

三重県総合文化センター  Photo by Nodaさん

 

 


最初は言葉の扱いに長けた団体が福岡から!


1.福岡県・九州支部代表

混声合唱団うたうたい 

https://twitter.com/utautai_choir

 (混声45名・第66回大会以来9大会連続出場)


指揮者は同声合唱部門でメンズ・ウィードさんを振られる高嶋昌二先生。
昨年は

課題曲G3、
「うたをうたうのはわすれても」
ちゃんとアンサンブルしてましたね。
ここで初めて「大人の歌い方」を
聴いたというか。
旋律の歌い方も語感も非常に優れていたので
詩が心に染みてきました。


自由曲:信長貴富
「2.溢れひたす闇に」
「3.浅き春に寄せて」
こちらも良かったですね。
混声合唱の響きとしてしっかりしていて、
音楽のメリハリもあり。


どの曲も詩情の表現が味わい深く、
高嶋先生らしさが前面に出た演奏。
温和なサウンドの歌声でことばの温もりに包まれた。

……と、大変好評でした。

うたうたいさん、今年の演奏曲は

●課題曲
G1 Gaude virgo, mater Christi
Josquin des Prez 曲

●自由曲
「嫁ぐ娘に」より
「3.戦いの日日」
「5.かどで」
作詩:高田敏子
作曲:三善晃

うたうたいさんが課題曲にG1を選ばれるとは!
そして自由曲に三善先生の不朽の名作。
戦争が身近に感じられる今、戦災の過酷さ、そして平和の素晴らしさを歌うこの作品。
うたうたいさんの深い歌心によって、説得力ある演奏をされることを期待しております。

 

 

続いて北海道から豊かな音楽性の団体が久しぶりに!


2.北海道・北海道支部代表

THE GOUGE

https://twitter.com/the_gouge

(混声55名・9年ぶりの出場・第61回大会以来5回目の出場)


信長貴富先生の作品 「夏のえぐり」、
その「えぐり」の英訳である「GOUGE」を団名にされた「THE GOUGE」さんです。
今年Nコン全国へ17年ぶりに出場された札幌北高校のOBを中心に創団されましたが、今は北高出身者だけでは無く一般合唱団と捉えても良い印象です。

 

9年前の感想では

 

課題曲のコープランド
「Have mercy on us, O my Lord」
良かった、良かった!
G2で1番の演奏を選ぶならGOUGEさんかな。
自然にすっと入ってきて
スパイス、ケレン味が無くてもしっかり聴かせる演奏。


自由曲:千原英喜「おらしょ」の「II」は
指揮の平田稔夫先生の音楽がまず良いですね。
流れとメリハリが共存している良い演奏。


表情やテンポが変わるんですけど
それもスムーズに変化していました。
不自然な所が一切無く、
流れる音楽だったのが魅力です。

……と大変好評でした。

 

GOUGE代表の藤嶋美穂さんからメッセージをいただきました。

 

こんにちは!ガウジュです!!お久しぶりです!!!
一昨年は中止、昨年は北海道大会に不参加だったので私たちにとってはコンクールそのものが久しぶりでした。9年ぶりに全国大会に参加できること、団員一同とても楽しみにしております!
今回取り組む曲はG3「草原の別れ」、混声合唱のための「地球へのバラード」から「1.私が歌う理由」「2.沈黙の名」(谷川俊太郎 詩、三善晃 曲)です。
「草原の別れ」では個々の耳を鍛えつつ団員同士の交流を深めるため、パートをシャッフルした並びで歌っています。シンプルであるが故の難しさもありますが、指揮者曰く「練習が終わった後に片付けしながら誰からともなく歌い出す」ときのようなさりげなさ、温かさを大切に歌いたいと思います。
自由曲は「地球へのバラード」から2曲を選びました。三善先生の作品は何度も歌ってきましたが、コロナ禍で思うように歌えなかった時間を経て「三善を歌いたい」という思いが団員の中に溜まってきていたのか、この曲を選んだのは自然な流れでした。「人間を含む生命の星としての地球への愛」をテーマとするこの曲を、感染症との戦いに悩み、人間同士の争いにも心を痛める、今このときに歌う意味を思いながら歌います。
コロナ禍の約2年間、私たちガウジュも一時は団の存続すら危うい状況となりましたが、北海道の合唱仲間、そして日本各地にいる仲間の存在に、歌い続ける勇気をもらいました。この場を借りて深く感謝申し上げます。全国大会という場で多くの方に演奏を聴いていただけることは、長い間想像もつかなかった喜びです。少しでもいい演奏をすることが、皆さんへの恩返しになればと思います。

北海道大会での演奏直後ということ。

 

藤嶋さん、ありがとうございました。
文中の「北海道の合唱仲間、そして日本各地にいる仲間の存在に、歌い続ける勇気をもらいました。」
自分を主張するだけじゃ無く、周囲の仲間たちのおかげで今の自分たちがあるという考えは素敵だな、と本当に思いました。

 

なぜ「地球へのバラード」を選ばれたのか、この問いに指揮者の平田稔夫先生はこう答えられています。

ガウジュは全国大会こそ2013年以来9年ぶりですが、その間、単独演奏会を3回、松下耕先生ら同い年指揮者4人によるジョイント「Four Leaves Concert」を3回開催するなど、演奏会活動の方は充実していました。一方、コロナで練習がストップした期間が長く、その間に離れていってしまう団員も少なからずいて、先日開催したThe Premiere Vol.5を2021年2月から8月、さらに今年8月に延期する話をしていた頃は、存続の危機かもしれないと本気で考えていました。
昨年10月の市民合唱祭でやっと舞台に上がれるかなあと思った時、ガウジュの若手メンバーから「お試しオンステを募りたい」という意見が出て、信長先生の「未来へ」を選曲したところ、たくさんの方が歌いに来てくれ、私もみんなもやっと明るい気持ちになれました。そんな中で、歌の原点に帰りたいとの想いが地球へのバラードの選曲になったのかなと思っています。来年2月の演奏会では全曲演奏するのでたくさんの人に聞いていただきたいですね。

 

平田先生、ありがとうございました。
「歌の原点に帰りたいとの思い」から地球へのバラードを選ばれる気持ちはとても共感できますね。

「地球へのバラード」は東京大学柏葉会さんによる1983年の委嘱作品。
東京の合唱団:CANTUS ANIMAE団員の落合さんが、三善先生への委嘱の経緯を書き記して下さっています。

 

藤嶋さん、平田先生の文を読んでから、初演プログラム三善先生のメッセージがとても響いたので。
不遜かもしれませんが抜粋し、平田先生、藤嶋さん、ガウジュのみなさんへ捧げます。

バラード。それは皆さん自身の愛と生と死の場だ。皆さん自身の存在することそのことのドラマだけが、バラードを、地球への歌とするだろう。地球に歌いかけてほしい、皆さんの生きる抛物線が描くはずの地球に、地球のために。

 


続いては千葉から毎回強烈な印象を与える団体の登場です!

 

3.千葉県・関東支部代表

VOCE ARMONICA

https://twitter.com/vocearmonica

 (混声38名・7大会連続出場・第64回大会以来9回目の出場)


毎回超高いテンション、人数の倍以上に聞こえる練られた発声で強い印象を残すアルモニカさん。
昨年は観客賞第3位。

 

課題曲G2、O salutaris Hostia、
いろいろ工夫していて好きでした。
救世主に助けを請い願う気持ちが
強く伝わってきました。
歌い方すべてに感情が込められているような。


自由曲:信長貴富「とてつもない秋」。
聴いていてワクワクした。
ジェットコースターみたいな
演奏だった気が。
聴く者を強引に引きずり回す(笑)。
生で聴く意味がある、
ライブ感がある演奏だと思いました。


マスク付けてコレかよマジはんぱない
マコトとてつもない
目の前いっぱいに秋が広がりました
いつも驚かされますが、
今回も魔法の様な時間でした

……と、とても好評でした。

 

注目は黒川先生個人から千原英喜先生への委嘱作品である「女殺油地獄(おんなごろし あぶらのじごく)」。
近松門左衛門作の人形浄瑠璃が初演のこの作品は、歌舞伎や映画に何度も扱われる題材です。

指揮者:黒川和伸先生からメッセージをいただいております。

 

2022年度のVOCE ARMONICAは新メンバー16名を加えて総勢40名ほどで全国大会のステージに臨みます。

「入団オーディションなし、生え抜き育成に定評のある(?)、VOCE ARMONICA」。今年度も練習の多くの時間を、選手育成に費やしてきました。目下、チームとして万全の準備をもって全国大会に臨むべく、モリモリ最終調整をしております。

特に課題曲のジョスカンは中期ルネサンス、歌い慣れている後期ルネサンスの作品とはひと味もふた味も違います。たくさんの資料を参照し、有識者からお話を伺い、発音、ムジカフィクタ、テンポ、アルシス・テージス、フレージング、あーでもないこーでもないとアイデアを試しながら四苦八苦。鬼が出るか蛇が出るか、どのような演奏になるか、本番をご期待ください。

自由曲、9回目の全国大会となる今年は、創立15周年を記念して千原英喜先生に委嘱した新曲「女殺油地獄」を演奏します。「不義になって…貸してくだされ…」なぜ殺されたのか?なぜ彼女だったのか?借金のため、親からも金を巻き上げる荒んだ生活を送っていた油問屋の放蕩息子・与兵衛。すれ違う情愛、届かぬ思いの果て、与兵衛の心にとりつく一瞬の闇。300年の時を経た現代にも通じる若者の孤独と狂気の物語。聴いてくださる全国の皆様の心を惹きつけ、「忘れられない衝撃」を与えるような演奏をしたいと思います。

【宣伝】
VOCE ARMONICAでは一緒に合唱する仲間を募集しています。毎週日曜日に、千葉県松戸市や船橋市で練習しています。新年度、関東圏に進学、就職される皆さま、ぜひVOCE ARMONICAでアツい合唱をしませんか?ぜひ一度見学にいらしてください!

関東支部大会、演奏後の写真ということ。

 

黒川先生、ありがとうございました。
「女殺油地獄」を聴かれた人とお話ししたときに
「殺人事件を題材にしているのに、油で滑る、つるつるつるつる……というコミカルな擬音が演奏中に何度もあってね。作品でどういう意味を持つんだろう?と」
「落語とは業の肯定である、という立川談志の言葉のように、千原先生は『つるつる』の滑稽さの向こうにある、人の根源的な哀しさ、人そのものを描きたかったのでは?」
「でも、人生が滑っているという実感はおっさんにならないと理解できないかも」
「滑りっぱなしですからね・・・」
みたいな話をしました。

滑っているおっさんの話はともかく、課題曲から「鬼が出るか蛇が出るか」。
そして自由曲の「女殺油地獄」では、

「忘れられない衝撃」を与えるような演奏をしたいと思います。

ホラー映画のCMか!と突っ込みたくなるほどの黒川先生の真剣さ。
茶化してしまって申し訳ないのですが、最近のコンクールは耳当たりが良い曲、柔らかな演奏をされる団体が多くなって。
それはもちろん肯定すべきことだし、私自身も歓迎してきたこと。
でも、それはそれとして、合唱音楽、表現の限界に挑み、聴衆を極度の緊張状態へ引き込む演奏を目指すのも、また素晴らしいことだと思うのです。

黒川先生とVOCE ARMONICAさんとのこれまでは、愚直なほど真正面に合唱音楽を、演奏を突き詰めてきたもの。
創立15周年を記念して委嘱された自由曲「女殺油地獄」。
これまで以上に、聴く者へ突き刺さる演奏になることは間違いありません。
身構え、深呼吸し、拳を握り締め、聴きましょう!

 

(次回へ続きます)