観客賞バックステージ 混声合唱部門 最終回

 

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mkさん、本当にありがとうございます!!

さて新潟の天気なんですが・・・

「最低気温2度」!

なんてこった、土日だけがいきなり冷え込むようですね。
雪も降るみたいですが、路面は凍らないと予想し。
冬用では無く、いつもの靴を履いていくつもりですがどうかなあ?
いずれにせよ、傘は必須のようです。
みなさん、防寒対策をしっかりしてお出かけくださいね!

さて、11月4日から続いてきた連載もいよいよ最終回。
前回は岡崎混声合唱団さん、Vocal Ensemble 《EST》さん、合唱団あるさん、scatola di voceさんをご紹介しました。

この新潟全国大会、大学ユース、室内合唱、同声合唱、そして混声合唱の部の全45団体。
最後の3団体のご紹介です。

張り詰めた空気で「究極」の表現を指向する団体は?


12.千葉県・関東支部代表
VOCE ARMONICA

https://vocearmonica.amebaownd.com/

https://twitter.com/vocearmonica

(混声35名・8大会連続出場・第64回大会以来10回目の出場)

前回の演奏は考え抜かれたジョスカン・デ・プレのG1が独特な雰囲気を醸し、委嘱作品の自由曲:千原英喜「女殺油地獄」は高い実力で演劇性を伴う世界観を見事に表現されていました。
観客賞でも昨年は第2位の支持を得て、人気・実力共に高い団体です。
ホールの空気に雷が疾るような、聴いていると椅子に縛り付けられるような、集中を極めた演奏が特徴の団体。

アルモニカさん、今回の演奏曲は
●課題曲
G2 Les fleurs et les arbres(「Deux choeurs」から) Camille Saint-Saëns 詩曲

●自由曲
混声合唱のための「アヴェ・マリア」
作曲:細川俊夫

課題曲がサン=サーンスとは、興味深いですね!
指揮者:黒川和伸先生の、アルモニカさんの演奏の幅を広げようとする意欲を感じます。

自由曲の「アヴェ・マリア」は若くしてドイツで学んだ国際的な現代作曲家:細川俊夫氏による16声部の作品。
1991年に東京混声合唱団によって委嘱初演されました。
凄い曲です。
「アヴェ・マリア」という曲名から、グノーのような優しく美しい音楽を想像される方がいるかもしれませんが、まったく違います。
はじまりから異様な雰囲気と緊張。
めでたし、マリア」の意味に疑問や不安を抱く音。
線のようにまとわりつく声が捩り、織られ、ホワイトノイズを思わせる息を交え高まっていき、内圧が爆発するようなクラスターの絶叫「Jesus Christus」!

細川氏のキリスト教へ向かい合う心、この「アヴェ・マリア」から約20年後のインタビューでは「キリスト教的な音楽は永遠の神が住み、永遠の光が射すような大きな音の建築物。しかし自分は音で建築を作るのではなく、消えていくものの美しさ、生まれては消えていく、その生成の過程と死んでいく過程、それを聴いていくことが大事だと僕は思うんです。それは結局、仏教的な無常観のようなものにつながっていくのかな、というようにも思います。」……と語られています。
聴いているとソン・カリグラフィ、「書」に影響された武満徹の音楽とも通じる、毛筆の完全にコントロールできない線や、空間や無との境界を思わせる要素があり、やがて細川氏が求める「美しさ」が浮かび上がるような。

16声部、高いテンション、その持続が求められる大変な難曲。
全国大会では合唱団OMPさんが1993年、合唱団ゆうかさんが2000年、松下中央合唱団さんが2007年に演奏されています。
どれも素晴らしい名演ですが(3団体とも金賞第一位を受賞)、松下中央合唱団さん以後、演奏されなかったのがわかる気も。

目指すは...日本一

コンクールは技術偏重や緊張が付きもの。
それでも最近は、選曲も演奏も一聴して柔らかく楽しいものへシフトしている傾向があります。
もちろん合唱音楽の幅広さで歓迎しつつ、反面、アルモニカさんのような極限の緊張を強いる「究極の合唱表現」を求めている自分がいます。

ぎりぎりの声、ぎりぎりの表現、ぎりぎりの生。
昨年のアルモニカさんへの感想には

並々ならぬこのコンクールへの熱量!「コンクールなんて」と言われる時代に溢れる野心を感じる

そんな感想がありました。
人生最後のように情熱を燃やすアルモニカさんの姿を期待しています。


続いては北海道からこちらの団体!


13.北海道・北海道支部代表
THE GOUGE

http://thegouge.web.fc2.com/

https://twitter.com/the_gouge

(混声68名・2年連続の出場・第61回大会以来6回目の出場)

信長貴富先生の作品 「夏のえぐり」、
その「えぐり」の英訳である「GOUGE」を団名にされた「THE GOUGE」さん。
前回の課題曲「草原の別れ」は、爽やかで明るく、繊細な作りながら自然な印象を醸し出しており、非常に興味深いもの。
自由曲の三善晃 「私が歌う理由」「沈黙の名」は「三善先生が人の声で想像していた音を実現している」「もっと聴きたいと思わせる声と演奏」と評判を呼びました。

ガウジュさん、今回の演奏曲は
●課題曲
G3 水上(「三つの無伴奏混声合唱曲」から) 北原白秋 詩 柴田南雄 曲

●自由曲
混声合唱と2台のピアノのための「であい」
作曲:三善晃

課題曲の「水上」にはやはり指揮者の平田稔夫先生、ガウジュさんならではの音楽を期待。
「水上」の詩集「海豹と雲」序文には「虚にして満ち、実にしてまた空しきを以て、詩を専に幻術の秘義となるであらう」と書かれていて。
相反する虚と実、これこそが詩の秘密であると白秋。
「水上」も古事記からの湯津真椿など、古めかしく感じられる言葉が並び、即ち古きものを新しく讃えるという意味も含まれ。
相反する視点は、繊細でありながらも伸びやかな、ガウジュさんの演奏にも共通する要素があるように思います。

自由曲の「であい」は2003年合唱団「松江」の委嘱初演。
初演されてから今年で20年の節目の作品となります。
テキストは三善先生自らのもの。
全国から集う合宿形式の10年間続いた合唱団「松江」が2003年に解団することになり、その別れに向けて委嘱された作品です。

ここでであいましたね みんなは 
 あなたの眼差し あなたの眉 あなたの声 
 そして みんなで歌いましたね 
 ここで 秋のこの地で

三善先生の歌う人へのあたたかい眼差しが感じられるような言葉と音楽。
10年前の三善先生が亡くなられた年、2013年にこの「であい」を演奏した団体がありました。
それが4番目に出場するCANTUS ANIMAEさん。

三善先生へ音楽が届いたと感じたのはもちろんですが、
CAさんがあれだけ音楽へ、演奏へ全てを捧げ尽くしていたのなら。
三善先生は、きっとあの時あの場所にいらしていたと思うのです。
そしてこれからも、そんな演奏があるかぎり。 

さよならは別れることではない、信じていることの証
想いがこもった演奏は名演と讃えられ、記憶に残るものになりました。

三善先生が亡くなられて10年。
いま、ガウジュさんが、ガウジュさん自身の歌を演奏することで、きっと名曲の生命は永らえるはず。
私たちへ多くのものを与えてくれた三善先生へ、また大きな贈り物を返しているような。
ガウジュさんの「であい」からそんな風に感じることを、強く願っています。

 


この混声合唱部門、新潟全国大会の最後を飾るのはこちらの団体!


14.東京都・東京支部代表
Combinir di Corista

http://combinir-di-corista.com/

https://twitter.com/combinir

(混声36名・9大会連続出場・第61回大会から14回目の出場)

多様なレパートリー、すなわち「品揃え」にこだわり、コンビニエンスストアーにちなんで団名を「コンビーニ・ディ・コリスタ」とされた、通称コンビニさん。
この熾烈な混声合唱部門で、金賞1位の文部科学大臣賞を4大会連続受賞。
さらに当ブログの観客賞で混声部門第1位、全団体から選ばれる観客大賞も2年連続受賞というまさにスーパーな合唱団(いやコンビニです)。

前回は声もフレージングも素晴らしい課題曲「智慧の湖」、そして現代的な教会と古典的な教会のふたつの響きをプーランクとマルタンの「Kyrie」で表現した自由曲が、名曲の名演に新たな歴史を刻んだと讃えられました。

 

コンビニさん、今回の演奏曲は
●課題曲
G4 Ⅰ―空と涙について―(「恋の色彩」から) 古今和歌集より 田畠佑一 曲

●自由曲
Soupir(ためいき)
作曲:Maurice Ravel   
編曲:Clytus Gottwald

「Figure Humaine(人間の顔)」より
「7.La menace sous le ciel rouge(脅威は赤い空の下で)」
作曲:Francis Poulenc

課題曲「空と涙について」は嬉しいですね!
高松、そしてこの新潟全国でも盛んに歌われた作品。
松村努先生の音楽に対する深い理解から、また「納得!」と叫んでしまう演奏を聴かせていただけるのでしょうか。

ラヴェルの「Soupir」は歌曲集「ステファヌ・マラルメの3つの詩」の1曲目。
秋を描いた美しい詩にふさわしいラヴェルの繊細で優れた作品です。
ただし、16声部に編曲されたゴットヴァルトの合唱版はとんでもない!
マーラー作品の編曲などでその名と合唱編曲の響きは刻み込まれていましたが、改めてラヴェルの原曲と、ゴットヴァルトの編曲を聴き比べし、「編曲」の意味を考えてしまうなど。
(ゴットヴァルトは編曲では無く、ラヴェルの音楽から「transcriptionしたもの」という話もあり、今後も考えていきたいですね)

自由曲2曲目は昨年に続きプーランク。
ラヴェルとフランス繋がりでもあります。

混声6部の2重合唱……って先ほどの16声部といい、コンビニさん36名ですよね?!
テキストは詩人ポール・エリュアールが第2次世界大戦中、ナチス占領下のパリで書いた反戦詩。
プーランクらしい機知に満ちた魅力的な音楽ですが、詩の内容は戦争がもたらす生々しい恐怖と死の情景です。
終曲「自由」の前の曲ということで、争いが頂点に達し、人心も何もかも荒廃している状況を描いた詩。
鶴岡土曜会さんが「嫁ぐ娘に」で終曲の「かどで」を演奏せず、「戦いの日日」だけを演奏することに通じるような。
それが今の世界、私たちが直面している現実ということなのでしょう。

ただ、この詩の最後はÀ des hommes indestructibles(滅びることのない人間たちへ)で締められています。
それは人類に対する、限りない信頼と讃歌。

平和的な結びではなく、一握りの希望が込められた「脅威は赤い空の下で」で終わろうとした松村先生とコンビニさんの意志。
未来へ繋がるために、この大会最後の演奏をしっかり見届けようと思います。

 

万代橋ブルーライトアップ(新潟市)

 

【ありがとうございました】

いつもなら出場団体のみなさまとのやり取りで記事を書いていたのですが。
今回は体調不良のため、十分な準備が出来ず、勝手な独り言のような連載になりました。
限られた時間の中で書いたものなので、いろいろとお恥ずかしい箇所がたくさんあります。
土曜日からの演奏を聴く際の楽しみ、また新潟全国大会へ出場されるみなさまのエールになれば幸いです。

それではみなさん、新潟でお会いしましょう!


(観客賞バックステージ2023 おわり)