観客賞座談会・混声合唱の部 最終回

 

 

つなん雪まつり&SNOWWAVE2024・津南町観光協会

 

前回は観客賞・混声合唱部門、第6位内には入らずとも、印象的だった団体鶴岡土曜会混声合唱団さん岡崎混声合唱団さんVocal Ensemble 《EST》さんへの感想をお話ししていました。

今回は混声合唱部門で印象的だった団体感想の続き、最後の2団体についてお話しします。

広島県・中国支部代表
合唱団ある

https://chor-aru.vercel.app/page/top

https://twitter.com/Chor_Aru

 (混声68名)

B 自分は投票しました!
 課題曲G3 水上
 楽譜に忠実に演奏していて。
 それが単に忠実なだけじゃなく、
 ちゃんと曲の内容や流れ、
 音楽の求めるものに沿っている。
 シンプルに楽譜通りに歌っているけど、
 それだけじゃない。

 
 うんうん、音楽に自然さ、
 市民合唱団的な良さがあって。
 ひとりひとりが思う歌を発信し、
 それを良い音楽の流れとして
 活かしている感じがありましたね。


 いろんな年代の団員さんがいるから、
 そういう懐の深さが
 ああいう演奏に
 なっているのかなぁって。


「故郷を思い出しながら歌っている」
 感があり。
 この「水上」を演奏した団体の中では
 とても好きな演奏でした。


 自分が投票した大きな理由は
 自由曲:松本望「1.夜ノ祈リ」。


 広島の団体がこの作品を歌った、
 その切実さが!


 そう、太平洋戦争での
 悲惨な記憶を残している地に
 暮らしている人たちが
 この曲を歌うという意味。
 そして現在の世界状況。
 罪も無い普通に生きていた人たちが
 ああいう目に遭って・・・。


 そうですね、
 戦場ではないし、兵士でもない、
 隣り合わせた普通の人たちが
 戦いに巻き込まれる恐ろしさ。
 テンションが最初から高くないゆえに
 音楽の起伏や、
 ピアノの見過ごされそうな美しさが
 あるさんの演奏で初めてわかった気が。


 普通の人々が理不尽な目に遭い、
 戸惑っているようにも感じました。
 等身大、ひとりの人間としての祈り、
 叫びになっていたと思うんですよ。


 実際に壮絶な体験をした人たちには、
 体験を証言する人たちもいれば、
 「言えない!」と拒む人もいて。
 あるさんの演奏は、
 その「言えない人」に
 寄り添っているのかな、と。

 広島の合唱団が
 こういう演奏をされたことは
 内面で非常に感じるものがありました。

【メール、Xの感想です】

課題曲が良かったし自由曲も心に響きました。


二つの祈りが素敵すぎました!(語彙力)


この作品を老舗の合唱団の充実した音の演奏で聴けただけで感動した
テキストを咀嚼して聴き手に訴えかける形で、感情が揺すられる音楽になっていたと思う


夜ノ祈リに固唾を呑んだ


G3 自分の団でやった時と解釈が近い感じがした、500倍上手く歌えてたらこういう水上にしたかった。
もたもたしないで進んでいくの、大事。
自由曲
す…ごい…難しそうな曲…やっぱり全国レベルだと選曲からして違う。
衣装の青さも曲の雰囲気にすごい合ってた。
ただ口をぽかんと開けて聴いているしかなかった…


68名で夜ノ祈リを作り込むのはとても大変だったのではと。
初演団体の身として、歌ってくださるのがまずありがたいなぁという気持ちと、どんなお気持ちでこの曲と向き合って来られたのかと思うとなんとも言えず…。
勝手にファンしている福原先生の指揮もみれて幸せでした!

 

 

混声合唱部門、いよいよ最後の団体です!

埼玉県・関東支部代表
scatola di voce

http://www.scatola.jp/

https://twitter.com/scatola_di_voce

 (混声31名)

 好きでした!
 納得というか、指揮の森田悠介先生と
 通じるものがあるのかな(笑)
 初めての金賞、おめでとうございます!


 ピアノが良かったですよ!


 そうですよね~!
 やはり松元博志先生は良いですね!
 課題曲G4
 Ⅰ―空と涙について―
 最初は合唱が奥に
 引っ込んでいるのかな?と思ったけど、
 ピアノと寄り添うように
 音楽を紡いでいって。
 ヴォカリーズと言葉ある歌を
 上手く繋いでいましたね。
 バランスも良かったと思いました。


 団員さんと森田先生は同年代くらい?
 歌い手と指揮者が近くて、
 森田先生の指導だけじゃなく、
 団員さんの自発的な歌、気持ちが
 演奏に乗っている印象がありました。


 後半「しきたいの」から
 盛り上がりがジーンと来てねぇ~!
 自分たちの心情を
 上手く歌として語れる団体だなぁって。
 自由曲1曲目:ドナーティ「Noche(夜)」
 インパクト抜群の出だし!


 世界がガラッと変わった!


 そう!でも高いテンションだけで
 進めるんじゃなく、 
 ちゃんと和音や響き、ニュアンスを
 団員全員が理解している演奏で
 とても良かったです。


C 2曲目のマニアーノ
 「Lux Aeterna(永遠の光)」
 ステージ上で輪になったのに驚いて!


 ビックリしましたよね!
 輪になり、
 向かい合う人の声を聴き合う……
 輪の中から生まれる音をこそ、
 大切にしていこうとする、
 そんな深読みもしてしまいました。


 スカートラさん、
 リスタートのために
 6月にいったん活動を休止されて。
 だいぶ団員さんも
 入れ替わったそうですけど
 そういう意図があったのかも。


 聴いていて、光に包まれた・・・


AC文 お~!


 海外の団体っぽいんですよね。
 日本だと内にこもり
 隠そうとしがちな思いを
 外に出し、積極的に人へ伝えようとする。
 この「永遠の光」も
 彼ら彼女たちの心と通じ合ったような。


 輪になったところへ
 上からの照明の光がちょうど当たって。


 でしたね~!
 あのりゅーとぴあだからこその光、
 音の響き方!


 たまたまかもしれないですけど
 同じ関東、埼玉の合唱団なので
 新潟のこのホールを訪れ、
 計画を練ったのかもしれないですね。


 関東大会は各県持ち回りだから
 このホールの響きは知っているはずだし。


 「あの照明の光の輪は活かせるかな?」
 意図だとしても、偶然でもスゴい!


 並びも、そして響きも新鮮でした。
 輪になると客席へ
 届かないのかなと思ったけど。


 ぜんぜんそんなことなかったです。
 ソプラノさんが後ろ向き、
 衣装のスパンコールが輝いて。
 輪の中心から光が立ちのぼり、
 祈りが伝わってくるような。


 ずっと考えていたんだけど……
 「フランダースの犬」のラスト!


AC文 それだ!!!(笑)


 りゅーとぴあに
 天使が降臨していました・・・。

【メール、Xの感想です】

G4ぼくはとても好きな解釈。
支部よりも練られてて👍マニアーノはオーダーいいね


夕刻を感じさせる歌い出しから始まる切々とした感情に溢れたG4の後、自由曲の冒頭のフォルテで世界観の切り替わりにハッとさせられた
2曲目の独特すぎる並びの時のハーモニーが一番充実してた


圧倒的世界観。
よくやる孤状の並びがこのホールでは功を奏した印象。


結成当時から知っている団体なので、今回の解体と再構築を通してこの結果というのはすごくほっとされたのではないかと思いました。
課題曲は松元さんのピアノが素晴らしく、自由曲は世界観に引き込まれました!
ソプラノの方、素敵だったな〜!これからも応援します😊


スカートラめっちゃ上手くなっててびっくり
課題曲の作り方がハマってて、自由曲どっちも美しく鳴り響いてた


G4 ようやくこの曲が少しずつ分かってきたような気がした。
深い解釈、分かって伝えようとしている。
ドレス色っぽかった。
自由曲
特に2曲目が良すぎて…パナムジカに楽譜がないよう。
情感のこもった強い祈り。TenorとSopのハイトーンで鳥肌たった。世界かぶわーって広がるような…語彙がない…大好きな演奏でした。

 

 

【混声合唱部門を振り返って】

 

 さてこれで混声合唱部門、
 新潟全国大会の45出場団体を
 すべて話したわけですが。
 混声合唱部門を振り返って、
 どうでした?


 混声合唱部門ね、
 あまりにも完成形だから・・・


 どういうこと?!


 あまりにも自分たちが
 「こういう曲を選んで
  こういう風に演奏する」を
 極めている団体ばかりだったから
 「あっ、そうだよね」って・・・。
 納得感しか無いんですよ、
 どこの演奏聴いても!


 そうですよね……
 長年、こだわりを持って
 自信を持って出されたものだから
 ちょっと違和感があっても
 「自分の方が間違ってるんじゃ?」


 アリかな? アリかも!!
 「頷くしかない」って(笑)


A 今回、混声合唱部門では
 初出場が無いじゃないですか。


 全国大会自体が
 初めてという団体は無いです。


A 初出場が無かったから
 わかっている団体ばかりで。
 「自分たちの良いところばかりで
  勝負してきたな」って。


B 田畠さんみたいな新星が
 混声部門に突如現れたら
 面白いけどね。


 でも新しい才能って今なら
 室内合唱部門か
 大学ユース部門から出るのかもね。
 仲間を集めて少数精鋭で
 切り込んでいく!みたいな。


A そうですね、
 ユースから始まったものが
 時間の経過と共に発展していって
 混声合唱部門に参加、
 そういうラインの可能性かな。


 しかしこの問題は難しいですね……。
 言わば駅前の一等地に
 老舗で大人気の洋食屋があって。
 その隣に新鋭イタリアンシェフが
 新規開店したら続けられるか?!(笑)


A いやでも、その洋食屋が
 店を畳むかもしれない。


C文 あ~……そうですね~。


B 土曜日に
 「8時だョ!全員集合」が全盛だったのに、
 次に「オレたちひょうきん族」が
 人気になったでしょ?
 時代は変わっていくんだよ。


 古いな~(笑)
 その後にとんねるず、
 ウッチャンナンチャン、
 ダウンタウン……
 盛者必衰、か。
 ちょっとみなさんに伺いたいんですけど、
 「音楽」ってノイズがどれだけ入っても
 聞き取れるものなのかなって。


ABC なにを言い出すの?!


 いやぁ、さっきの話じゃ無いけど
 老舗の洋食屋シェフが年齢を重ねていく。
 同じように合唱団も高齢化で
 経年変化が起こりえるわけですよ。
 コンクールなんて顕著じゃないですか。
 数十年単位で聴いている合唱団の
 「音楽」をいつまで聞き取れるのかな?と。


B でも今年のMODOKIさんの演奏は
 声が若返った気がするな。


 あの……めっちゃ失礼なんだけど
 ある団体さんは
 「あまり耳馴染みの無い現代曲」選曲時に
 全国大会へ出場している印象があって。
 それって素材の変化が気づきにくいのも
 理由じゃないかなぁ。


A 偶然でしょ?!
 他の出場団体が純粋に良かった年も
 あっただろうし。


 また話が変わるけど。
 合唱を聴き始めてから
 わかりやすい障壁が2つあって。
 ひとつは「言葉」
 日本語から違う言語、
 ラテン語やドイツ語の曲を聴き始めるときに
 やっぱり抵抗があった。


C MODOKIさんの時にお話ししましたが、
 今でも抵抗がある人、います~。 

 

 もうひとつは「素材の経年変化」
 合唱の聴き始めは、
 中学高校の統一された
 若い声の演奏に慣れていたから、
 伝統ある合唱団、
 幅広い年代の声には最初抵抗があった。


A そこから中高生の合唱しか
 聴かない人たちもいるよね。


 あと経年変化とは違うけど。
 これはずっと前に雨森文也先生に
 お話を伺ったときから考えていて。
 ピアニストのミスや、
 オーケストラのアインザッツのズレの中から
 音楽を聞き取ることなんかもね。

A 「経年変化」って・・・
 「20年経っても君の笑顔は輝いてるよ!」
 ……じゃダメなの?(笑)


文 もちろん素敵さ!……って(笑)
 いや、笑顔は認めるんですけど、
 ノイズが多くなっていくと
 どうしても輝きを見つけにくくなる。
 輝きをノイズの中から見つけるために
 自分ができることは?って。

 ・・・心を動かしたいんですよ。


B 「心を動かす」、ね。
 それを聞いてコロナ前に
 文吾さんを酷いと思ったことを
 思い出したんだけど話していい?

 

AC 聞きたい!


 なんだろう……怖いけどどうぞ。


B 自分の好きな合唱団に
 文吾さんの知人女性、
 Tさんという方がいて。
 そしてTさんの娘さんが入っている
 中学校合唱部が
 全国大会に出るって聞いたんだ。
 でも娘さんの全国大会の演奏を聴く前に
 Tさんは亡くなってしまったんだよね。


AC あぁ・・・。


B 全国大会が終わった後、
 聴いた文吾さんに
 「演奏どうだった?」と尋ねたんだよ。
 もちろん娘さんが歌った
 中学校の感想を期待するよね?
 そうしたらこの人は
 「いやぁ沖縄の中学校素晴らしかった!
  ボロボロ泣いてしまいました」と
 ずっと他の中学校の感想を続けるんだよね。
 たまらず「娘さんがいた中学校は?」って
 尋ねたらこの人黙っちゃって!
 あれは本当に酷いと思った!


 ・・・ごめんなさい。
 えぇと、弁解してもいいですか?


B どうぞ。


 Tさんの娘さんの中学校は
 正直に言って
 心が動かなかったんだよね。


B  やっぱり・・・。
 でも、あの場で 「心が動く」のは
 そこまで大事なことかなぁ?


 ごめんなさい・・・。
 それでもね、聴くまでに
 演奏曲の楽譜を取り寄せて読んだり。
 他の音源も複数聴いて、
 作品の本質や魅力を掴もうとして。

 生きてきた中で一番真剣に聴こうとして。
 あの中学生が目指す理想の音楽を
 可能な限り見つけようとした。
 それで目指そうとする音楽は理解できた。
 亡くなった彼女に伝えようと、
 できるだけわかりやすく
 良かったところを書いたんですよ。


B え、ブログに載せてたっけ?


 いや、彼女宛てのは載せていない。


B そこまで準備して真剣に聴いても
 あの中学校の演奏で
 文吾さんの心は動かなかった。


 そうなんですよね。
 心が動かなくても
 「一生懸命に歌ってたよ」と
 答えても良かったのにね。
 そういう間に合わせの答えが
 Tさんに一番怒られそうと思ったのかな。


B  たぶんTさんは怒らないでしょう?


 そう、自分の問題ですよね。
 ……Tさんに会って話したかったな。


A いや・・・さっき尋ねた
 疑問への答えは
 もう文吾さんわかってるんじゃないの?


 「音楽」ってノイズがどれだけ入っても
 聞き取れるものなの、って?


A 演奏を聴く前に準備し、
 演奏中に中学生たちの理想は何か、
 一生懸命掴み取ろうとしたんでしょ?
 その結果、目指す音楽は理解できた。
 ノイズが多くなった合唱団でも
 それは同じなんじゃないの。
 生きていく中で楽譜を読んだり
 多様な音楽を聴いたり。
 そして実際の演奏を前にしたら
 作品の本質、理想像を掴もうとする。
 他の合唱でも貫くのが大切なんじゃないの?


B もちろん発声や音程の純度は大事だけど、
 その奥にある
 「表現したい本質」を見つけ出す。


 そうか・・・。
 たとえばできるだけ先入観を持たない。
 聴きはじめたらすぐ投げ出さない。


C そうそう、
 何かそこに良いものがあると思って聴く!


 「夢みたものはひとつの幸福
   それらはすべてここにある
  ……ですかね。

 とりあえずひとつの幸福が目の前にあるんで
 味わって良いですか?


B 好きにしたら(笑)

新潟全国大会・観客賞座談会の連載はこれでおわります。
たくさんのご投票、そして感想を寄せていただいたみなさま、本当にありがとうございました!