備忘録・演奏会三題

備忘録として3つの演奏会を。

 

【三善晃生誕90年/没後10年記念:反戦三部作】

2023年5月12日(金) 19:00開演(18:00開場).
場所:東京文化会館

指揮/山田和樹
合唱/東京混声合唱団、武蔵野音楽大学合唱団
児童合唱/東京少年少女合唱隊

3年前にチケットまで購入していたがコロナ禍で中止されたこの演奏会。
聴く前に予想していた「圧倒」「情念の暴力」「泣いて言葉が出ない」ということは無く。
正直に、正直に感想を言えば「楽しんだ」になるのだろう。

三部作最後の「響紋」の長い静寂、拍手のあと思ったのは「……レクイエムもう一回聴けないかな?」だった。
理由はいくつかあるが、合唱、オケも三善先生の求める音像を深く理解し、表出していたのが面白過ぎた。
「詩篇」での滝壺舞踏の沸き立つリズム、波の墓の合唱の美しさに魅了された人も多いだろう。
声と重なり、補い、その先を歌う弦楽器。
スピーカー(と後で聞いた)の併用で時空を歪めた打楽器。

確かに演奏しているその時間には、死者を呼び起こし死者に語らせ死者が手を掴む感覚があった。
しかし、終わってしまうとその感覚は擦り抜けている。
音楽の収め方が美し過ぎたためか?
山田和樹氏が語るプログラムにも記されていたが、今日の演奏会は実体の無い虹のようでもあった。

ただ今後、生半可な演奏を聴いたときには、今夜の響きが酷い耳鳴りのように轟轟と叫ぶ予感がする。
王孫不帰や戦いの日日、オデコのこいつや唱歌の四季で、楽譜にも書かれていない音、三善先生がそれでいいのかときっと問う。
虹が消えたとき、虹の色を正確に説明できる者は誰もいないが、虹の美しさは誰もが語る。

演奏後ロビーに残る大勢の聴衆を前にした、ヤマカズ氏アフタートークも興味深かった。
およそ7年に渡る準備期間。
今日の会場、東京文化会館の館長だった三善先生。
日本の音楽文化を発信する意義。
演奏の実体は虹として擦り抜けた気もするが、自分の身体を形づくるものとして欠けがえないものと化した気もする。
それを確かめる意味でも、いつかまた実演を聴きたい。

 

演奏後、満員の観客によるスタンディングオベーション。
ヤマカズ氏へのあたたかい拍手も良かった。
あとネットでは「チケット完売、期待していた演奏会なので、美味しい洋食の、さらに極上のものを求めたのに、分子ガストロノミーや材料に虫ってなんなの⁈」みたいな感想があったのも良かった。
ふだん聴く合唱(そして現代音楽も多分そう)は身内なので、なかなかそういう酷評を目にすることが無い。
この反戦三部作が、合唱、現代音楽の枠外の人にも届いたんだなぁと。

そうそう、東京少年少女合唱隊が素晴らし過ぎた。
いくらでも上手く歌えるのに素朴さを残し。
歌いながらの入場、最後に後ろを向き自らの実体を無くすかのような演出、前列5人が手を握って笑顔で歌っていたのが尊い。
いまを生きる子どもたちの姿に、目の前で機銃掃射され亡くなった三善先生のご学友が重なり、「響紋」が「レクエイム」へと繋がっていく円環。
来世に作曲の才能があったら児童合唱でどれだけ大人の涙を搾り取れるか挑戦したい。

 

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団 第649回トリフォニーホール・シリーズ
日時:2023年5月13日(土) 14:00
会場:すみだトリフォニーホール 
指揮:沼尻 竜典
独奏:ユーハン・ダーレネ(Vn)
独唱:砂川涼子(S)、山際きみ佳(Ms)、清水徹太郎(T)
合唱:栗友会合唱団、新国立劇場合唱団

 


新日フィル、メンデルスゾーン「讃歌」、新国立劇場合唱団・栗友会合唱団の合唱も輝かしく、時に甘く歌い(男声)、良かった。
とにかく5曲目を生で聴きたかったので
「ヨ!たっぷり!」と声をかけたくなるほどのテンポで満足。
大音量なのにどこか澄んでいく印象はやはりメンデル先生ならでは。
8曲目コラールは後半入ってくるオケとのバランスを考えて強めにしたのか。

あと独唱の女性お二人への謝礼は違うのか、あるならどの程度の差なのか。(←歌う量にかなり違いがある作品)
合唱団の楽譜は印刷だったがやはりまだ電子譜は早いのか。
昨日の東京少年少女の衣装から、今日のソリスト衣装タキシードとドレス。
ジェンダーレス化は難しいのか、期待(お約束)と現代性について考えたりなどしました。

 


香川二期会合唱団第55回定期演奏会
2023年7月10日 14時開演
高松:レグザム小ホール

 


山本啓之さんが指揮される香川二期会合唱団の第55回定期演奏会へ。
前に聴いたのは2019年。
自分と同年代か、より年長の方が多い団体なんですが、歌い手として、個々がしっかり発信される姿に打たれました。
男声は他の団体と比較してもかなり高水準。

あと「共感」。
信長貴富先生編曲「1971年生まれのポップソング」や千原英喜先生「良寛相聞」。
「翼をください」や「虹と雪のバラード」、69歳の良寛さんの恋心。
過ごした人生とテキストが深く響き合い、歌になる力。
技術の巧拙だけではなく、表現の芯となる惹きつける大切なものを感じました。
「良寛相聞」の最終曲では、合唱団も指揮の山本さんも、限界を越えそうな熱演!

香川二期会合唱団さんの演奏を聴き「40代以上が共感して歌えるテキストはなんだろうか?」と考えて。
言葉に多義性、過ごしてきた人生と響き合うようなもの。
花鳥風月、自然を謳ったものだけでは無く。
若い方は生きている「いま」に焦点を当てたテキストが好まれそうだけど。
40代以上、シルバー合唱団は「過去」も範囲に入ってくるわけで。
そういうテキストの邦人合唱曲はなんだろう、と?