「銀の匙」と「飼い喰い」

荒川弘さんが描く北海道の農業高校を舞台にしたマンガ「銀の匙」。
札幌の進学校からやってきた主人公:八軒勇吾が体験する
カルチャーギャップが面白い作品。


銀の匙 Silver Spoon 3 (少年サンデーコミックス)

銀の匙 Silver Spoon 3 (少年サンデーコミックス)


ちなみに2012年マンガ大賞受賞作。
肉用の豚を飼育する実習で
八軒は「豚丼」と名付けて可愛がるが・・・。



自分も豚は「食べるための動物」として見ているけれど、
では犬や猫のペットと豚はどう違うんだろう?
豚は可愛がれない?
いやいや、そんなことはないですよ、と言ったかどうかは知らないけれど
こんな本があります。



内澤旬子「飼い喰い 三匹の豚とわたし」

飼い喰い――三匹の豚とわたし

飼い喰い――三匹の豚とわたし


イスラム圏、韓国、バリ島、エジプト、モンゴル、アメリカ、
そして東京芝浦屠場での豚・牛の屠蓄を観て回った
「世界屠畜紀行」の著者が、
それぞれ種類の違った豚の交配から始まり、
千葉県旭市に家を借り、豚小屋を作り、豚用の車を借り、
ペーパードライバー用の講習を経て、三匹の豚を育て、屠畜し、
食べてしまうまでのノンフィクション。
「豚丼」ではないけれど、
内澤さんは「夢」「秀」「伸」と豚それぞれに名前も付ける。


本の雑誌での内澤さんによるエッセイ「黒豚革の手帖」で
発行前からこの本に触れていて期待が高まっていましたが、
読むと期待以上でした!
豚を飼い、育てることへの膨大な事実にも圧倒され、
それでも(それだからこそ?)
大上段に屠畜することへの結論を出さないのが良いのです。


「飼い喰い」は「ありがとう、いただきます」の二つの言葉が、
なんだか食べることの罪悪感の免罪符のように聞こえて、
その違和感から始まっている、そうです。
安易に「命をいただくことに感謝…」のような言葉をかぶせて
結論づけてハイおしまい、にするのはどうだろう、と。



「世界屠畜紀行」で何千頭と屠畜される豚を見てきたはずの内澤さんが、
豚が生まれる姿、そして同時に簡単に死んでいく豚を見てショックを受ける。

「今自分が圧倒されているのは、生まれることの、
 死と隣り合わせの、文字通り紙一重の、
 どうしようもないはかなさだ。」 

こんな気づきがあったり。



大事に愛情を込めて育て、いよいよ出荷する時、
豚の一頭である「夢」が逃げ出して家に戻ってしまう。
内澤さんは家で嬉しげに歩く「夢」を見てこう思うのです。

「そうだよねえ、夢ちゃん、
 もうあたしとここで一緒に住んじゃおうか」



本の雑誌」6月号では
服部文祥氏との「飼い喰いサバイバル対談」も読み応えあり。


本の雑誌348号

本の雑誌348号



生前の豚たちの写真が載っている
内澤旬子さんブログ「空礫絵日記」もお勧めです。
http://t.co/frqILckd




先人が練り上げてきた技術と制度、
養豚業界の現状、
そして「命を食べる」という行為に圧倒され、
内澤さんは簡単に結論を出さない。
だからこそ読む側も、読み終わった後で、
問いとして考え続けることが出来るように思えます。
そういう意味で読後も「残る」本です。
銀の匙」と併せてどうぞ。



当たり前だと
思い込んでた物を
一度きちんと
捉え直すのも
大事だな、って。